両片思いⅡ【Fischer's】 (ページ16)

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No.61 潮の香りに置いていかれて⑦ ページ16

Silk side

俺の手と繋がれた細いAの手。

シ「馬鹿、俺ら付き合ってるわけじゃねぇんだぞ」

『いいじゃん、海まででいいから』

微笑みそう言うAに負け、仕方なくそのまま走る。手を繋いでるからそこそこ距離も近く、小さく彼女の息遣いも聞こえてくる。

改めて間近で見ると睫毛が長い。目も煌めいているように見えるし唇も淡いピンク色で、俺は思わず生唾を飲んだ。

『なーに？人の顔じっと見て』

シ「…別に？」

『そ。……あ、見て！あっち！』

シ「海見えてきたな」

俺達は砂浜まで走り、ここで少し休んでから戻ることにした。

水面には夜空へ浮かぶ丸い月が反射して揺らめいている。俺は砂の上にゆっくりと腰を下ろす。隣にAもしゃがむ。

『月も海も綺麗だね。吸い込まれちゃいそ…』

そう言った彼女の顔を見ると、その瞳は月光に照らされてキラキラと輝いていた。髪を耳にかける小さな仕草さえ、とても美しく見える。

だから「お前もな」と言いかけた口を慌てて押さえた。不思議そうにこっちを見つめるAから顔を逸らして。

バレなかったかどうか焦ってしまった俺は、そっと手に触れたものへの反応が遅れる。

『シルク。＿＿＿＿＿＿＿＿好きだよ』

呼ばれた声の方に向くとAが顔を赤らめていて、その彼女の手が俺の手に添えられていた。

＿＿＿＿＿＿んだよ、その顔……。ずりぃだろ…。

ドクンと一度、心臓が鳴った。

触れたAの手の上に今度は自分の手を乗せ、それに驚いた彼女の頬に手を。大きな瞳を僅かに震わせた彼女の目と目が合う。

その瞳に微かな驚きと怯えに似た色を感じて。彼女は少しだけ重心を後ろへ持っていき、俺と触れてない方の手を地面につき、少し肩を縮こめた。

＿＿＿＿あと数cm。近づけば触れてしまう距離。

ダメだとわかっていても止まらない身体。

ぎゅっと瞼を閉じ口を引き結んだA。紅潮した顔がゆっくり近づく。

『んっ……』

まだ触れていない。だが小さく漏れた声に、全身が火照るのが分かった。

＿＿＿＿月明かりの下に、俺達は。

＿＿＿＿＿＿＿俺とAの距離がゼロになり、柔らかく、優しく、互いの唇が、触れていた。