Heartbreaker 【吉沢亮】 (ページ9)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:21,675 hit

9 ページ9

彼女と話していたら働き始めの頃を思い出してしまった。

今まで一度も思い出すことなんかなかったのに。

なぜなのだろうか。

そう深く考え込んでいると彼女は不思議そうに僕の顔を覗き込んだ。

“ツバサさん？何かありました？”

彼女の言葉にハッとする。

『いえ、A様があまりにもお綺麗でついつい見惚れてしまいました。』

“ふふふ、ご冗談はよして”

誤魔化しの安っぽい言葉

これまでになんどお客にかけてきたことか。

その一つ一つには気持ちなんて籠っているわけがなくて、形だけ。

別人格を演じれば誰もスラスラと出てくるんだ。

そんなことを考えているとエレベーターが到着し、彼女をエスコートする。

彼女がここが何をする場所かわかっていないことはほぼ確実だったが、ほかの初回の客と同じ扱いをすることにした。

到着のベルが鳴る。

『着きましたよ』

彼女にそっと手を差し出し彼女がそれに応える。

“2階も同じお店なのね、とても素敵。”

これから行われることが何なのか彼女は分かっているのか、それとも本当に予測がついていないのか。おそらく校舎であろう。

しかし、見ず知らずの男に連れられてノコノコと店の奥まで来てしまうのは危なっかしいにもほどがある。

そう思う僕の気持ちを隠しつつ、ボクは仕事を全うすることに集中することにした。