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「名原、一緒にペアワークやろうや」
「…いつもの子たちとやらなくていいの？」
「余ってもうてん。それに、名原とやりたいし。あかん？」
「いいよ」
みんなが眠い目を擦る、五限の英語。
先生がペアになって英作文を書きなさいというから、俺はAのところに真っ先に向かった。
余ってしまったなんて嘘。
あいつらも悪いやつやないけど、Aとやった方がずっと楽しいだろうと思った。
「名原は英語得意なん？」
「まあ、苦手ではないかなぁ。言語だし。
数学とか、理系科目の方が苦手。
数字じゃなくて、言語で会話したいもの」
またそんな不思議なことを口からこぼすから、笑ってしまう。
Aは基本的になんでもそつなくこなすイメージがあった。優等生と言われていたとしても疑問はなかった。
やから、Aから批判する言葉が聞けるとは思ってもいなかった。
「俺、あんまし英語得意やなくて。なんでわかるん？
なんか、単語もなんも覚えられへんし…」
「ん〜、僕はノリでやってるかな。
難しいこととか、英単語帳作ってるとか、全くない。
リズムで覚えるの。この文体はこんなリズムだったからきっと次はこの動詞が来るでしょ、みたいな。
単語なんて覚えなくていいよ。定期テストなんて単語よりも文章構成力の方が見られるし」
ノリやらリズムやら、抽象的なことばかり。
Aは地頭が良いように見えた。勉強はしっかりとしているらしいけど、それでも、俺とは考え方とか、発想が何もかも違う気がした。
柔軟っつーか、突飛っつーか。
凡人からすると、こういう人間が世の中のズレや疑問を解いて、のちに偉人になるんやろうな、っていう感想。
「いいかい、寄り目くん。英語はね、数字じゃなくて、言語なんだよ。
言語には様々な表情がある。伝えたいことがあって、それは受け取るひとによって変化する。
それは、英語でも、日本語でも、ラテン語でも、なんでも。
こちらから歩み寄ればおのずと表情を見せてくれるのが、言語なんだ。
数字と違ってね。」
いくらなんでも数学を嫌い過ぎてはいないか、とは思ったけど、彼の言っていることはよく的を射ていた。
言葉への熱量は、誰よりも持っているのだろうなぁと、放火犯の俺はAに火をつけてしまったことを後悔する。
Aは、これ以上の想いで、自分の創作に向き合っていたのだ。
どのくらいかは、計り知ることはできない。
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作者名：ひるた | 作成日時：2023年1月28日 1時
