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Aは、他の同級生よりも大人びていた。
趣味のせいもあるだろうが、異様、異質。それくらいに、彼は精神が成熟していたように思う。



今は温厚で、少女が住んでいるとさえ言われる俺でも、高校生時代は荒れていたのだ。
あの歳で一体全体、どうしてあれほどまでに落ち着くことができるのだろうと思うのは、俺だけなのか。



男子高校生なんて皆、授業中は友達とコソコソ話して、たまに爆笑して、休み時間は放課後に何して遊ぼうか、と相談し合い、喧騒の一部となるものではないのか。



彼はそんな青春を嫌うかのように、休み時間のたびに、ノートを片手に教室を出ていく。



「名原、いつもどこおるん?」



教室から出ていくAの姿を見て、俺も廊下に出て、彼の後を追った。



「寄り目くん。



うーん、静かなところ、かなぁ」



Aは追いかけてきた俺に目を見開き、ノートを口元に当てたと思ったら、そんなことを言った。



「静かって、図書室?」



「その日の気分によるかなー。



屋上、生物室、三階の階段、音楽準備室…とか。



あ、今のお気に入りはね、多目的教室。



あそこ綺麗なのに、誰も使ってないから穴場なんだよね」



至って無邪気に彼は答えた。
指を折りながら、好きなキャラクターを挙げるみたいに。
まるで、Aは人から、喧騒から逃げているみたいだった。
自分の身に降りかかる邪気から、そっと身を隠すように。



「なんで、教室おらんの?」



「僕、うるさいのだめなんだよね。



耳栓しても、授業中でも、僕の世界に侵食してきてるみたいで」



なんか、気持ち悪くて。
と、バツが悪そうに笑う姿は、少し痛々しかった。
きっと彼はあの場の誰よりも繊細で、大人で、未熟なんやと思う。



素直に俺は、学校という集団生活が向いていない人なんやと認識した。



「じゃあ俺も、気持ち悪い?」



「ううん。桐山くんは、なんだか安心するの。



理由を言語化できないから、僕もわかんないんだけど。



前、言ったでしょ。レースカーテンみたいだって。



今は、あれだね。コンポタージュのほうがいいかも」



コロコロ変わる表現と、不思議な引力に、俺は思わず笑みがこぼれる。
何言うてるか分からへんのに、言わんとする事は分かる。



きっと、彼を理解できる人はいない。
だから、理解しようと歩み寄る人も居なかったんやろう。



せやから、俺が理解してみようと思った。
君が抱える、大きすぎる世界を。

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作者名:ひるた | 作成日時:2023年1月28日 1時

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