例えば、あの鳥が飛び立つみたいに。 ページ1
たまに俺のことを、寄り目くんと馬鹿にして呼ぶのは、戻っては来ない無情な昔を思い出してるからやろか。
「寄り目くーん。お歌、うまいなぁ」
「うわ、聞いてたんかい」
「屋上ででっかい声出してたら気になるでしょ」
「うわ、まじ?三階でも聞こえてまうんか」
思えば、あいつが俗にいう"大丈夫な人間"なんやったら。
…俺は、あいつに惚れることはなかったやろうし。
「照史くんは、どうして歌手にならなかったの?」
「いやいや、急になんで?(笑)
いや、だって…保育士なりたかったし」
「そんなに歌がうまいなら、なれば良かったのに。
僕が文字にして照史くんをひょひょひょーいと大物歌手にしたのに」
「なれるかあほ(笑)
Aはすごくても俺が無理やわ」
もったいなーい、と天を仰ぐように天井を見上げるのは、本心からなんかはわからへん。
いっつもからかってくるし、いじってくるし。
「寄り目くんにはずっと僕のお家で歌っててほしいな」
「俺もついに一家に一台必要な時代か〜」
「桐山照史はひとりでじゅうぶん!」
なぜかAは仕事をしとる姿を見られるのを嫌った。
というよりも、職業柄、あんまり人のおるところやと集中できへんのやろうけど。
「はい、照史くんはいまからお料理担当」
「また作詞するん?」
「いま歌詞とメロディーが湧いてきたから、すぐ取り掛かる」
「へいへい。いつまで作っとけばよろしー?」
「二時間後には見切りつける」
照史くんとおったら歌詞が降りてくるーって微笑んでいたあの優しい表情は、本心やと信じたい。
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作者名:ひるた | 作成日時:2023年1月28日 1時