・ ページ37
.
｢…あ、｣
地面と足元だけの視界に突然入り込んできた、黒いビジネスシューズ。
大きさと紐の結び方で なんとなくだれなのかすぐに分かったのは
人生のほとんどをこの人と過ごしてきたからにちがいない。
｢…そうた、｣
颯太 ｢ひさしぶり。下向いてたらほかの人とぶつかっちゃうよA｣
スーツの上からダウンを羽織った颯太。
窮屈なPコートじゃないのが彼らしくて、思わずくすっと笑ってしまった。
スーツ姿で駅前で会ったところから考えると、きっと仕事帰りなんだろう。
そりゃそうか、平日の夜だもん。自分だって同じ、だし。
颯太の口元を見て会話は理解できたものの、慌てて切ったばかりの補聴器のスイッチを入れ直した。
.
数年前まで学生だった自分たち。
いつの間にか社会人になって、連絡こそとっているものの顔を合わせることも前より少なくなって。
歩けばすぐに会える距離だって、なぜか遠くに感じることが多くなった。
自然と同じ道へと歩き出した颯太とわたし
隣に並んでいることすらも懐かしくて、あの頃は当たり前だったのに なんだか不思議な感覚。
颯太 ｢ツリー見てたの？｣
｢うん、｣
颯太 ｢おっきくてきれいだよね、あれ。｣
きっといつもなら、わたしもそう思ってた。
たくさんの装飾がついたツリーも、イルミネーションも、素直にきれいって思えてた。
だけど、今のわたしには光がぼやけて、くすんでしか見えないの。
｢そうた、仕事慣れた？｣
��うん��すら上手に返せない自分がいやで、少しだけ微笑んでから話題を変えた。
あんなに誤魔化すのが下手だったくせに、いつの間にこんなことができるようになっちゃって
進んでほしくない時間の流れには、これっぽっちも逆らえないことを実感する。
そんなことしても、きっと颯太にならバレちゃうかな。
颯太 ｢うん、なんとかやってるよ。
Aは？がんばってる？むりしてない？｣
｢うん、わたしもなんとか。…ちゃんとがんばれてるよ｣
颯太｢…そっかあ、はやいね。俺らがもう仕事してるとしなんて｣
｢ほんとだね(笑)なんか…夢でも見てるみたい、｣
早すぎる時の流れに、追いつけていない自分の心も
目まぐるしい毎日も
少しだけ大人っぽくなった顔の颯太も。
ぜんぶ現実じゃないみたい、なんて思うわたしは
疲れてるんだろうか、
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1009人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「少年忍者」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：スイ. | 作成日時：2021年8月31日 21時
