【鬼灯の冷徹】子狐こんこん肆

子狐、刺繍をします。 ページ23

｢ほんっとにセンスない！！！｣


昼休み、衆合地獄の事務所にて梅子は刺繍をいくら教えてもまったく上達する気配のないAの出来栄えに悲痛な声を上げる。

同じく教えてもらっていたアヤメの綺麗な仕上がりに対してただ布に糸をグッチャグチャに縫いつけているようなAの成果。


｢おかしいな……｣

と頭をかくAに

｢なんで…本当になんでなの…！｣

と梅子は項垂れた。


｢あらあら、何してるの？｣

訪れたお香に梅子は泣きつき、Aの刺繍の出来について相談した。

Aの裁縫センスを知っているお香はただ困ったようにニコリと笑うだけである。


｢何を騒いでいるんです｣

お香の背後から現れた鬼灯に3人は｢わっ！｣と驚いた。

どうやら事務所の壊れた給湯の修理に関して経理課の人と訪れたらしいのだ。

同じくAの刺繍について聞かされた鬼灯は


｢芸術的なセンスと器用さがあのバカ神獣と同じでまったくないんですよ｣

｢薬を作るのは出来るのに…｣

｢そこが不思議な所です｣


｢でも！｣とAは反論する。


｢私の絵は芸術的だってなすちゃん言ってたもん！｣

｢貴女は綺麗な風景画を描いたつもりでしょうが、

茄子さんはムンクの叫びと同じ系統の絵だと思ってるんですよ｣


ムムムッと頬が膨れてきたAは

｢もう鬼灯様に刺繍のハンカチあげません！

代わりに猫好好作って部屋に放してやる！｣

そう言って事務所から出て行き、


｢そんな事したらその倍の数の油揚げ送りつけるぞ！｣

と鬼灯も声をかけ、

またこの二人は…と梅子達は呆れた。









「えっと…いたっ！」

仕事の後、食堂で一人で刺繍に励むAは格闘の末、なんとか刺繍入りハンカチを作りあげた。


「できましたか？」

背後から声をかけた鬼灯にAは驚いてとび上がり、すぐにハンカチを隠してそっぽを向く。

「鬼灯様にはあげません」

｢昼間はすみません。見せて下さい｣

鬼灯にそう言われ、Aはゆっくりとハンカチを差し出した。


｢…これは、中国の妖怪ですか？｣

｢鬼灯様の似顔絵です…｣


糸で形作られたまがまがしい物体が自分であるという事に衝撃を受け、5度見くらいしたが

その出来に色々な意味で圧倒される。


｢ありがとうございます。大事にします｣

しかし、絆創膏が貼られた小さな手に嬉しさと愛しさでたまらなかった。





後日、たまたまその刺繍を見た茄子に

｢何か変わった妖怪？｣と聞かれるのであった。

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