猫かぶり少女の憂鬱

死なせないで ページ11

あ「業くん…まさか…」

当てたくない。当てたくないけど。

ヒヤリと背中に汗が伝う。

潮「Aちゃん？」

業くんが一瞬私にアイコンタクトした後

確認したいんだけど、殺せんせーって先生だよね？

と言って木の上で殺せんせーの方を向いて立ち上がる

殺「？ はい」

業「先生ってさ。命をかけて生徒を守ってくれるひと？」

殺「もちろん。先生ですから」

殺せんせーの顔色も声のトーンも何も感じられない

先生。気づいてない…？

いや、そんな…まさか

業「そっか。良かった」

業「なら殺せるよ。確実に。」

銃を構えて。業くんは。落ちる。

「「「！！！」」」

殺せんせーは一瞬で崖から業くんに向かって飛ぶ。

ターゲットに頼むのもおかしな話だけど。



あ「死なせないで…先生」



口からぽろりと漏れた

潮「業くん！！」

2人で崖の下を覗き込んだ。

発砲音が聞こえない。ということは…

潮「先生の触手がネットの代わりになってる！」

あ「……"計算ずくの暗殺"。悠長に救えば撃たれるし、音速で救えば業くんの体がもたない。か」

潮「平然と無茶したね…」

渚くんは男の子だからだろうか、落ち着いてる。

私は…動揺を隠せない。

もっとも普通の人には動揺してるようには見えないかもしれないが。

あ「私たちは"目撃証人"として呼ばれたってわけね…」





"計算ずくの暗殺"が終わったところで、

先生の財布をサラッとスっていた業くんが

業「渚くん、Aちゃん。これでご飯でも食べに行こ」

と声をかけてきた。

あ「私はパス。…ちゃんと殺せんせーに財布返しなよ」

潮「えっ、もう帰るの?!」

暗殺が失敗に終わった瞬間に

言うなれば空気も読まず、さっと退散する私を見て

少し驚く渚くん。

あ「うん。買い物頼まれてたの忘れてた！」

バイバイ。と渚くんに笑顔で手を振って

半ば駆け足でその場を去った。





あ「…不自然だろうなぁ」

でもあの場であれ以上に

良い言い訳が思いつかなかったのだ。

自分でも訳が分からないくらいに心がグチャグチャだ。

──私は何に対して、不満に思ってるの？

とりあえず、外の世界をシャットアウトする為に

イヤホンを耳にはめ、

プレイリストから曲を流し続ける。

…よく分からないけど、ぽろっと1粒涙が流れた。

と同時に肩を強く掴まれる。

あ「！」

誰？！

肩を強ばらせて、ゆっくりと振り向くと…

業「Aちゃん…？」

業くんは少し息を切らしながら、

私を見て目を見開いた。

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