白鷲が六羽 ページ6
「あれ、まだやってたの？」
壁打ちをする俺に、着替えた及川が声をかける。驚いた拍子にボールの横を叩いてしまい、跳ね返ったそれは及川の顔面を直撃した。
「あ......及川さんのビューティフォーな顔面が」
「ちょっと！ 俺より前に言うのやめてくれない!?」
ギャーギャー怒鳴りつつも、転がったボールを拾ってくれる。
「着替えたとこ悪いんだけどさ、トス上げてくれない？」
「いいけど、もう遅いからちょっとだけだよ」
投げられたボールをレシーブすれば、美しい弧を描いて掌に到着する。そのまま腕を振り下ろせば、それは地面に叩きつけられている。
「もう一本！」
ターン、ストレート。レフトで、ライトで、センターで、バックで。
あらゆるパターンを何本も打ちつづけた。途中で「ラストね」と言われたが、それも無視してボールを投げた。
及川のトスを打つことが、こんなにも楽しい。でも試合中、このトスの先にいるのは俺じゃない。ああ、くそ。
力任せに打ったボールがサイドラインを割ってアウトになる。「もう一本！」と声を出したところで、及川に咎められた。
「柚須！ オーバーワーク！」
「待って！ あと一本だけ！」
「何回目のあと一本だと思ってんの！」
問答無用でネットを下げ始める及川。仕方がないので俺もモップをかけ始めた。磨かれた床が照明を反射して光る。そこに映った自分の顔が想像以上に歪んでいて、嫌悪を覚えた。
「なに床と見つめ合ってんのさ！」
「あ......ごめん」
「及川さんほどのビューティフォーな顔面じゃないと意味ないでしょ！」
「自分で言いたかったんだ」
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作者名：イルカ | 作成日時：2024年4月13日 16時
