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「はい、どうぞ」
ソファに座ってうつらうつらしていると、目の前にスープが入ったボウルを出された
「ありがと」
そのボウルを受け取ると、涼太は私の隣に腰掛けた
ボウルの中には小さく刻まれた野菜が沢山入ったスープが湯気を立てている
鼻孔を擽る美味しそうな匂い
手から伝わるその温かさ
何だか泣きたくなって、誤魔化すように鼻をすすった
そこで自分が長く食事を口にしていないことに気付いた
命を紡ぐその行為
それすら疎かにしていた
自分の命を粗末に扱っていた
なんて浅はかなのかな
「ゆっくり食べて。胃がびっくりするから」
涼太の口調はいつもの優しいものになっていた
まるで、全部を見透かしたような
だからこそ、何も聞かないのかな
「…いただきます」
スプーンをゆっくり口に運ぶ
その優しい味と香りが口の中に広がって、素直に美味しいって言葉が飛び出た
顔は見れなかったけど、雰囲気で涼太が笑ったことが分かった
ゆっくりと、それでもあっという間にスープを飲みきった
身体の芯から指の先まで、熱が伝わる
何ていうか、自分を形成しているパーツとパーツがきっちりと合わさった感覚
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
涼太はひょいっと空になったボウルを私から取り上げて、そのままキッチンへと行ってしまった
彼は結局、私から何も聞き出そうとはしなかった
ただ、私が生きるキッカケをそっと手渡してくれただけだった
あまりにも不平等だなと思った
こんなにも、彼から一心に愛情を貰っているのに
そんな愛情すら無碍に扱っていたのかな
何から話せば良いのか分からなかった
懺悔の言葉も、後悔の言葉も、違うような気がする
涼太の背中を見ながら、私は口を開いては閉じてを繰り返していた
そのうちに涼太は洗い物を終え、私の隣に再び腰掛けた
ソファに埋まりつつ、そんな涼太の横顔を見つめた
「なぁに？」
こういう時、やはり涼太は私のちょっと年上なんだなって思う
彼だって色んなこと言いたいはずなのに、そうやって優しく笑って、余裕そうに
ズルいな
「寝なさい、気が向くまで。いつまでも居るから」
涼太の冷えた大きな手が、私の瞼にそっと触れた
覆われた視界
暗闇に包まれる直前、見つめた涼太の瞳はあまりにも色々なものを抱えていて
無条件に渡される愛情の大きさに、温かさに
簡単な言葉を伝えるわけにもいかなくて
少し、眠ってしまおう
この、温かい場所で
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なむる。(プロフ) - のんさん» コメントありがとうございます！この作品自体を美しいと言っていただけること…これ以上に嬉しいことはないです！また新しい作品でも出会えること願ってます。ありがとうございます！ (2021年2月10日 6時) (
レス) id: 74f22f9e0f (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 凄いという言葉しか出てこない、語彙力の無い自分が恨めしいです。セリフや文章表現の仕方など、とにかく美しい作品をありがとうございました。 なむる。さんの作品が大好きなので、これからも応援しております。 (2021年2月10日 1時) (レス) id: bdef6e19e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なむる。 | 作成日時：2021年1月14日 22時
