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Sakuma side.
ほんのちょっとの好奇心と自責の念を抱えつつ手渡したチケットを、彼女はちゃんと持っていた
舞台初日公演の幕が開き、俺のシーンになった瞬間
俺の視線は彼女に吸い込まれた
純粋に嬉しかった
でも、心の何処かで、あぁ、やはり彼だったら、なんて思ってる自分が居る
彼女の視線を痛いくらいに浴びながら踊った
それは妙に俺を高揚させた
誰かじゃない、明確な君のために踊る
久々の感覚だったんだ
貴方のために、踊るってこと
彼女の見えない心が、はっきりと俺と繋がったことを感じた
この感覚の共有を、俺はきっと求めていた
舞台が終わって客席を覗くと、Aちゃんが一人だけポツリと座っていた
あまりにも動かないから話しかければ、彼女の俺を見る目がほんの少し変わった気がした
佐久間さん、そういうの意外と敏感よ？
大人なようで、妙なところで子供な彼女にこんな姑息な手を使うのは卑怯なこと
そんなことは分かっているのに、彼女を誘ったのは俺の方
「家、行って良い？」
あまりにも明け透けすぎるかな？
でも、彼女は案外簡単に頷いてくれた
何かが壊れる気がした
いや、とっくに壊れているものに、漸く気付いたのかもしれない
Aちゃんの家は、何というか凄く彼女らしいと言うか
そういえばずっと前に阿部ちゃんが、その人の本棚はその人の人格を表すらしいよなんて言ってた
だとしたら、彼女はあまりにも無防備だ
しどろもどろなAちゃんをキッチンに追いやり、俺はそんな彼女の背を見つめる
あの日からもう分かっていた
好意とはまたちょっと違う
限りなく渇望に近いような
いや、彼女の言葉を借りるなら、俺はきっと彼女のことを好きなんだと思う
でも、その選択は俺が出来るものじゃないから
そう、これは、
キッチンの奥でこちらに背中を見せるAちゃんから視線を外す
そしたら、ローテーブルの足元に一つの口紅が落ちているのに気づいた
そっと手に取ってみる
黒いパッケージのそれ
蓋を開けると、ピンクよりも落ち着いたような色
女性の象徴
美しいもの
それでも、俺の頭に過るのはやはり彼なんだ
それは何に対する執着なのか
何に対する怯えなのか
苦しかった
「佐久間さん？、」
その声に弾かれたように顔を上げると、Aちゃんが戸惑ったような顔をして立っていた
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なむる。(プロフ) - のんさん» コメントありがとうございます！この作品自体を美しいと言っていただけること…これ以上に嬉しいことはないです！また新しい作品でも出会えること願ってます。ありがとうございます！ (2021年2月10日 6時) (
レス) id: 74f22f9e0f (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 凄いという言葉しか出てこない、語彙力の無い自分が恨めしいです。セリフや文章表現の仕方など、とにかく美しい作品をありがとうございました。 なむる。さんの作品が大好きなので、これからも応援しております。 (2021年2月10日 1時) (レス) id: bdef6e19e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なむる。 | 作成日時：2021年1月14日 22時
