28. ページ28
.
コンコン
その音に慌てて顔を上げた
「なーにAちゃん、そんな眉間にシワ寄せて」
そう言って自分の眉間をトントンと触る佐久間さん
考え込んでいた私を、カウンター越しに机を叩いて呼び戻してくれた
「何でもないですよ」
「むっ、何でもないですよの顔じゃないから聞いてるんでしょうが」
そう言って顔一杯に不機嫌ですよの顔をした佐久間さんにほんの少し笑いが出た
「何でもないですよじゃなかったけど、佐久間さん見たら何でもないですよになりました」
「何じゃそりゃ」
そうケタケタ笑って、佐久間さんは再び私から離れて本屋の中を歩き出した
その背中を見送りながら、彼と涼太はまるで対のようだなと、ふと思った
昨夜、本当に何の気なしに涼太に電話を掛けた
そしたら、彼が思ったよりも弱っていた
正直、そんな姿を見ることがなかったから戸惑った
でも、それについて彼は言及させなかった
その理由がただの強がりじゃないってことくらいは知っている
そんな涼太の想いを知っていながら、また今までのようになんて
安直すぎたのかもしれない
それが涼太を苦しめることくらい、知ってるのに
その距離を誤魔化すために涼太が選んだ今までがあったのに
私が涼太に向ける感情は、今どこにあるのだろう
それは圧倒的に従兄弟っていうポジションで
私と彼とのお互いを想う感情はきっと繋がり合ってない
これからも、繋がらないのかもしれない
危ないところに立っている
そうは、思う
でも、私だって思うところはあるわけで
ならば、お互いにちょっと我儘になってしまえば
なんてね
カウンターの中で書籍の予約管理ファイルを整理しつつ、チラリと佐久間さんの方を見た
本棚の間を縫うようにして本を陳列する佐久間さんは、今日も変わらずニコニコしてるのに
少し前、佐久間さんが知り合いだって言ってた男性
あれからも数回、ここを訪れている
その彼に向ける視線について、私はまだ彼に聞けていない
きっと聞いてもはぐらかされるだけなんだろうけど
そんな勝手な空想なんて辞めた方が良いのに
私も
佐久間さんも
涼太も
皆、どうしてこうも上手くいかないんでしょうね
誰かと誰かの簡単な相関図のはずなのに
それは繋がることのない一方通行な矢印
きっとそんなものはいくらでもこの世の中に転がっていて
そんなやるせなさを隠して、私達は上手に生きていくしかないんだ
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 143人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なむる。(プロフ) - 雪の王子様さん» 私が出した全ての作品に、本当に素敵なコメント下さって！！ありがとうございます^_^彼らの素敵な姿を描けたらな…頑張ります！ (2020年9月16日 7時) (
レス) id: 74f22f9e0f (このIDを非表示/違反報告)
雪の王子様 - さっくんでてきた！なんかすごい展開の予感…更新頑張ってください。 (2020年9月16日 2時) (レス) id: a501c8742d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：なむる。 | 作成日時：2020年8月23日 23時
