フラれたので慰めて【うらたぬき】 (ページ8)

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8話ページ8

いつもより気持ち早めに仕事を切り上げて、彼が待っているであろうカフェに足を向かわせた。てっきり店内にいるのかと思いきや、カフェの前のベンチに座っているものだから少し驚いた。

「中でゆっくりしてればよかったのに。」

小走りで駆け寄って声をかければ、「いや、いいんだ。」と微笑み立ち上がった。
隣に並べば彼は大きくて、あの年下少年とは大違いだと心の中で笑ってしまう。何故彼が思い浮かんだのかはよくわからないけれど。

「じゃ、行こうか。」

歩き出す楓也は、さらりと自然に私の手を握った。

不覚にも、泣きそうになってしまった。なんて安心する手なのだろうと。もうこの手には、甘えられないのだ。

「…離して。」

「！ごめん、つい癖で。」

パッと離された左手は春だというのにやけに冷たくて、上着のポケットに両手を突っ込んだ。

静かな、帰り道。

―――

「そう言えば、どこに家借りたの？」

愛しのアパートが見えてきたところで、彼に質問を投げかけた。同棲する前に楓也が住んでいたアパートは確か既に満室だったはず。ちょうど引っ越したかったから丁度良かったと私の部屋に来たのはいいが、その間に元のアパートは部屋が埋まってしまったらしい。

「友人の家に転がり込んだよ。笑われてしまったけどね。」

「…なんか、申し訳ないね、お友達さんに。ちょっとあれだけど、部屋決まるまでなら、いいよ？」

あぁ、こうやってさり気なく繋ぎ止めておこうとしてしまうなんて。未練タラタラにも程がある。私のばか。

アパートの階段を登り終わったところでそう提案をした。

ところだった。

「それは、だめでしょ。」

後ろから伸びてくる手に、抱き寄せられた。昨日と同じ、石鹸のいい匂い。

「っ…きみ…！」

「へへ、来ちゃった。」

へらりと笑うこいつは、紛れもなく昨日の少年で。無邪気な笑顔が大変眩しい、年下の、彼。

「来ちゃったじゃないでしょ…！なんでいるの！？」

「おねーさんに会いたくて？あ、ご飯作るように材料も買ってきた。……で、そちらは？もしかして。」

ツッコミどころはたくさんあるものの、少年が楓也を睨みあげるものだから、少し焦った。これはきっと、修羅場というやつ。

酔っ払っていた私はこの少年に楓也の愚痴を有る事無い事喋ったのだろうから、きっと察しはついているだろう。

「えっと…。弟さん、いたっけ？」

この楓也の一言に、彼はより一層と鋭い目で睨みあげるのであった。助けろ。