3.収まるところに ページ4
さわさわと柔らかい風。
夏はもうすぐなのか、蝉の鳴き声が増えた気がした。
ふわっと、一際カーテンを大きく揺らした涼風が
私の体を包み込む。
「ひな、大丈夫?」
私の心情を読みとったかのように、
心配そうに顔を覗きこむ、A。
中学のときから変わらず健康的な肌に、
だいぶ大人っぽくなった顔立ち。
垢が抜けるとはこういうことをいうのかな?
さぞ、大学ではモテているだろうに……。
なんて、どうでもいいことを考えていたら征くんにため息をつかれた。
「返事くらいしてやれ」
「大丈夫だよー」
わざとらしい返事に、今度は睨まれた
と思う。
おお、こわっ。
大袈裟な反応に、もう諦めたのか目を伏せた
気がする。
「相変わらず、仲いいねえ」
「ひなちん、そのリンゴ食べていい?」
微笑ましそうにこちらを見るAと、
いつの間にか彼女の隣にいるのが当たり前になったあっくん。
さっき征くんに切ってもらったリンゴを渡そうとして空ぶる。
その行動に、征くんが空気を読んで代わりにあっくんに手渡してくれた。
「ごめんね、あっくん」
「ううん。早く治るといいねぇ」
たぶん、悲しそうに眉根を下げている。
もう人の表情が読み取れないくらい、視力が低下した。
毎日毎日泣いているわけでもないのにぼやけてくる視界に、
不安ばかりが積もる。
でも、
「大丈夫だよ」
そっと右手を握られる。
伝わる熱に、根拠のない言葉でも
彼の言葉は安心を与えてくれる。
彼がいるほうに、静かに頷く。
このやり取りを見て、Aが涙声で言った。
「ほんと、二人が収まるところに収まってよかったよ」
その言葉を聞いて、
彼女を今になって必死に探している彼の顔が浮かんだ。
それは、私も思っているよ……。
早く、収まるところに収まってほしい
って……。
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作者名:星蛍 | 作成日時:2018年9月5日 23時