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13.林檎ケーキと珈琲 ページ14

行ったこともない、ただ近いという理由だけで入ったカフェは当たりだった。
カモミールティーと林檎ケーキを頼んだ私は、その美味しさに頬をだらしなく緩ませていた。

程よい甘さの生クリームとリンゴジャムがいい感じにマッチングしている。
敦も気に入ったようで、二口で一つ目のケーキを食べ終え、次は一気に三つ頼んでいた。

それを真正面から見ていた男は呆れ顔でコーヒーをすすっていた。


「幸せそうっすね」

「うん、ひあわへだけろ(しあわせだけど)?」

「……食ってからしゃべれ」


はあとため息をつく様すらかっこいいのだから、イケメンって得だなあと絶対に口にはできないことを心の中で思う。

ケーキを食べ終え、満足したとき、黄瀬が口を開いた。


「で、本題に入るっすけど」

「あ、忘れてた……」

「……」


店内というのもあり、額に青筋を浮かべるも我慢する黄瀬。

こいつって、こんなに我慢強かったっけ?
どっちかというと、短気だった気が……。

ぼんやりとそんなことを思っていると、
黄瀬がわざとらしく大きく咳をした。

そして、目で話を聞けと睨んでくる。
苦笑しながら、仕方なく黄瀬の話に耳を傾ける。
敦はケーキに夢中で、六個目を完食し、七個目に手を伸ばしていた。


「なんで、卒業した後、俺を避けたんすか?」


やっぱり……。

予想通りの話に思わず、顔を歪める。
それを見た黄瀬はムッと眉根を寄せた。


「高校も、大学も一緒だったのに全然知らなかったし」

「……言ってないからね」

「っ……お、教えてくれたって」

「なんで?」


今更、そんなことを言ってくる黄瀬に私は静かに怒っていた。

なんで、黄瀬に言わなきゃいけないの?
なんで、黄瀬に教えなきゃいけないの?

感情任せに言葉を吐きそうになる自分を、理性で押しとどめる。
だが、これ(・・)だけは黙っていられなかった。

淡々と言い返す私に、困惑し始めている黄瀬にひとこと言った。


「……避けたのはそっちじゃん」


溶け始めた氷が、カランと鳴った。

14.忘れられない瞬間→←12.当初の目的



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作者名:星蛍 | 作成日時:2018年9月5日 23時

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