すくすく (ページ2)

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出会い　１ページ2

智side

息子の翔も小児科医になって、自分の人生の中でいろいろな事が
一段落した。

少し早いけど、第一線を退くことを決めた。

完全に退くのは、少し未練があって週に何度か非常勤で働かせて
もらうことを決めた。

少しずつ、引き継ぎを進めていく中でどうしても気がかかりな子がいる。

３歳の潤くん。

数ヶ月前に救急搬送されて来た。若い両親の元に生まれて、育児放棄。

重度の栄養不良で衰弱した状態。

とても３歳には見えない。

若手の先生を中心に治療して栄養状態は改善したけど、心身ともに発達の
遅れがみられる。

育児放棄が原因で逮捕された両親は、潤くんを育てる気はないらしい。

栄養不良が改善されて、入院の必要がなくなれば施設への入所になるだろう。

それが最善の選択かなと思いながら、釈然としない気分でいた。

自宅で妻の春にこんな子がいるって話した。

春は、「あなたのお仕事も落ち着くし、翔ちゃんもお医者さんになったし、
うちで育てましょう」って言った。

翔ちゃんは、飲んでいたコーヒーを吹き出した。

翔「ちょっと、ちょっと、そんな簡単に。無理でしょ・・・」

「あら、どうして？私もパパも元気だし、翔ちゃんの弟よ。いいじゃない」って言う。

翔「パパ、いや父さん、なんとか言ってよ」

春と翔ちゃんに見つめられて、「翔ちゃんの弟か、いいね」って思わず言ってしまった。

その日を境に我が家は大騒動。

潤くんとの面会や関係各所との調整。家の模様替えなど。

春は、潤くんを見た瞬間に一目惚れした。

最初は消極的だった翔ちゃんも、何度か面会を重ねると「ダメだ、かわいすぎる」って
言った。

もちろん、３人でこれからについても真面目に話し合った。

『一致団結して潤ちゃんを育てていこう』って。

潤くんって呼んでいたけど、潤ちゃんの方がしっくりくるって春が言い出して、
潤ちゃん呼びになった。

何度か外泊して、晴れて家族の一員になった潤ちゃん。

育ってきた環境が原因で、生活習慣が身についていなかった潤ちゃん。

服を着替える、歯磨き、1日３食の食事、お風呂、トイレなど。

入院中は、治療が優先で生活習慣まで手が回らなかった。

普通なら、泣いて嫌がるはずの注射なんかもされるがまま。