四百三十三通目 ページ34
「は……、」
指揮官長と称された男が、呆気にとられたような吐息を吐き出す
その油の滲む肌を、冷や汗のようなものが垂れた
Aを指差す指は、緊張か怒りか震えている
──恐らく後者であろうけれども、詳細等はAにとって興味が湧くに足らないものに過ぎない
「きッ、貴様、敢死なさった最高指揮官殿を自称し名乗るなど、不敬だぞ！死罪になる覚悟があるというのかッ？！」
「……敢死？」
敢死とはいわゆる、覚悟の上で受け入れた死に対して使う言葉であるはずだ
死を受入れた？一体いつ、誰が？
崖から突き落とされたあの瞬間、どれほどに生きたいと願ったか
人間の本質が浮き彫りになったような醜さを顕にして、どれほど生にしがみついたことか
志半ばで戦場から足を離すことも、どれほど腹立たしかったことか
同士を──同じ幹部を討ち死にさせてしまったことに、どれほど後悔したことか
ずっと一人で生きてきて、どれほど、どれほど悲しかったことか
今までずっと悪夢にうなされて、それでも足掻いて強くなって
ここに足を運ぶことが決まった瞬間、心の中でどれだけ歓喜したことか
その一喜一憂、人生の一劇場の一幕を知らないで、敢死がどうのこうのとこの男はほざいた
嗚呼、それでも怒ってはいけない
あくまでも冷静に対処をして、生還したことを伝え、士気を向上しなければならない
冷静に、冷静に──
「私が死ぬ時どのような感情を抱いたか等、外野に取り決められるいわれはないわ戯けがッ！」
──自身が作った指針に相対して
Aの体はとても素直に、感情を曝け出すのだった
まるで子供のように、純粋な怒りで眉をひそめ
──寂しさの一端か、頬にひと粒だけの涙を伝わせるのだった
「お前に分かるか？！身を刺すような水流に身を取り込まれる感覚が！」
手を伸ばしても、誰も救ってくれない状況を
「お前に分かるかッ？！意識を飛ばして楽になりたくとも、自由意志でどうにも出来ない状況がッ！」
助けを呼んでも、答えてくれない状況を
自分は未だ十八歳の身の上だというのに、苦労ばかり積み重ねる辛さを
──今ここに立てている実感だけで、舞い上がってしまう幸福を
「お前に、わかってたまるものかッ！！！」
怒鳴り声の後、空間はしんと静まり返る
吐き捨てるように連ねた言葉の後、Aは自身を落ち着かせようと肩で息をした
怒っている時間が無いのは分かっている
それでも、貯めていた感情が、決壊してしまったのだ
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アンバ(プロフ) - (みたら士)神様､小説を創ってくれてありがとうございます｡ (2021年5月9日 1時) (
レス) id: 04b4947088 (このIDを非表示/違反報告)
有栖川.(プロフ) - 後輩くん…！個人的にはキャラ揃って大喜びしてます。最近更新多くて通知を見るたびに発叫してます。ですが、無理はなさらないように… (2021年5月9日 1時) (レス) id: 6bc5efe30d (このIDを非表示/違反報告)
シャノ(プロフ) - 最近更新増えて嬉しいです。 彼ですかね、、、！ 更新ありがとうございました！ (2021年5月8日 22時) (レス) id: f15c4b37e0 (このIDを非表示/違反報告)
Contrast(プロフ) - 本当にお話一つ一つが素敵で大好きです！無理のない更新で頑張って下さい！ (2021年5月8日 7時) (レス) id: 8384124a90 (このIDを非表示/違反報告)
アンバ(プロフ) - 本当に大好きすぎる…！読者をどれだけこの作品はびっくりさせてくれるんですか！更新ありがとうございます！！！ (2021年5月8日 4時) (レス) id: 04b4947088 (このIDを非表示/違反報告)
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