三百九十七通目 ページ48
「さすがに、泣かれるとは思っとらんかったわ」
「あ、いえ、ちが……っ」
Aの心の中に今、悲しいという感情はない
嬉しいわけでもない
正直なところ、泣く理由がさっと思いつかない現状である
だがしかし、兄さんと目を合わす、その旅に
奥底で今まで溜めていた気持ちが、脈動するのだ
ずっとずっと我慢していたことによる、煩わしさが渦巻いて
かろうじて動かせるようになった腕で、涙を拭いながら
ただ切に思った
「さび、しい……」
もう起き上がろうとすることは止めた
いつの間にか雲が流れ去った星空を、仰向けになって見上げて
泥濘に水紋を作りながらも、とめどなくあふれる涙を拭う
何故今更になって、こんなことを考えたのかは判らない
この状況で、幼子のような感情が息を吹き返したのか、判らない
それでもAは泣いていた
嗚咽混じりに母音をこぼし、僅かな困り顔を見せる兄さんを視界の隅にして
寂しい、寂しいと──
「……とりあえず、飲みや」
えずく口元に近づけられたのは、小瓶のフチ
兄さんは何処からともなく取り出した【治癒】を、Aに飲ませようとしていた
傾けられる液体に少々咽て、中身を吐きこぼしながらも、Aはそれを嚥下する
そうしてやがて、硬化したように動かなかった体を動かすこと叶い、Aは上体を起こした
泥塗れになった体躯は、後で川で水浴びでもしてどうにかしよう
尚も流れていた涙を強く擦って拭うと、Aはその身を兄さんに向ける
髪先から垂れる雫が冷たいし、張り付いた寝間着が動きづらいけれども
「……貴方は一体、なんなんです、か」
えずくのを堪えながらに、Aは問うた
今戦闘を持ちかけられては、対処しきれないかもしれないけれど
反撃の意を示すかのように、瞳は彼を射抜いたまま
しかし身構えるのも意味がないように、兄さんはまたにへらと笑い直して
あっけらかんと、答えるのだった
「改めて、自己紹介しよか」
「俺は兄さん。【とある国】の、密偵や」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1969人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
萌木 - もしかしたら意図的で、この先の話を読んでいないのでそんなに偉そうに言えないですし、このコメントが届いているのかもわからないですけど、 三百七十六通目の最後、兄さんはヴィルヘルミナの名前しか知らない筈です。 ご確認お願い致します。 長文失礼致しました (2022年7月8日 17時) (
レス) @page27 id: 7b477ee6df (このIDを非表示/違反報告)
bh(プロフ) - 心の中で盛り上がってまいりましたと踊っています。主人公がうっに再会できること心より楽しみにしております。 (2020年1月22日 23時) (レス) id: 204dfe46bb (このIDを非表示/違反報告)
歌い手総推し！&外資系と書記長寄りの箱推し！ - とうとう運命の瞬間が…！niさんと夢主ちゃんはどのような反応をするのか…楽しみに待っています！ (2020年1月22日 13時) (レス) id: 6e4f801f19 (このIDを非表示/違反報告)
みたら士(プロフ) - 茶葉さん» （コメントの検索避けありがとうございます）二人の関係がどう動くのか……夢主の運命は……どうぞ楽しみにお待ちください (2020年1月21日 20時) (レス) id: 88ea3ab685 (このIDを非表示/違反報告)
みたら士(プロフ) - しゅがーさん» そろそろ�修砲眛�りますし、物語は展開を続け……この質問が一体どうなってしまうのか、ご期待しつつお待ちくださいな (2020年1月21日 20時) (レス) id: 88ea3ab685 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
