104話 ページ26
銃口を男に向ける。
それに対して動揺もしなければ、男はむしろ笑っていた。逆光で顔はよく見えなくても、笑っているのだけはわかった。
手には未だに爆弾のスイッチ。あと3回押されれば、外に出るための道と通路は爆破され、生死は危ういだろう。
……外に出るための通路と、それぞれの柱に爆弾が仕掛けられていたらしい。
この建物がきっちり壊れるようにだ。柱が壊れれば、徐々に倒壊し、後は建物ごとぺしゃんこ。建物の構造も調べた挙句にこの用意の周到さ。なるほどな。かなりの怨恨のようだ。
執念深さが伺える。けれども、わからないことがひとつある。
「何故、花菱氏を直接攻撃するような真似はしなかった」
「……へえ、あんたそこまで見てたんだ」
爆弾をここに仕掛けた時点で、もうすでに花菱氏のみならず、客や警察を巻き込んだ誰かを殺すことになる事は知った上だったのだろう。
だが何故、そんなまだるっこしいことをしたのか。殺すだけなら直接手をかけた方が早い。それなのに、遠回りだ。
「外に出ずに、逃げる訳でもなく真っ先にお前はここに来た。つまりは逃げる気はない。こんな爆弾まみれの場所に残る理由なんて1つだ。何か別の目的がもう1つあって、それをやり遂げた後にお前はこの建物ごと爆破して死ぬ気だったんだろう」
「………アンタ、随分と優秀な警察官なんだ。その通り。だけど1つだけ訂正。直接攻撃をしなかったんじゃなくて、出来なかったんだ。お前ら警察の護衛が予想以上に固くてね」
本当は殺してやりたかったけれど、実際には殺せたらラッキーくらいの気持ちだった。
なんて、吐き気のするようなことを宣う。
「ここさ、花菱の所有する元々は美術館だったらしいんだけどね。いつ頃かは知らないけど、今じゃこんな風に改装してある。……ここであいつは花菱と出会った」
光が落ちたどこか暗い瞳が、どこか懐かしむように、遠く見つめる。
「俺にも昔は妻がいた。妻がいる人並みの幸せなんてものがあって、普通に働いて、普通の毎日を送っていたよ。
……妻は所謂記者を生業にしててな。取材もあってこういう場に来る事も多かった。」
銃口は向けたまま、男が話し出した昔話に耳を傾ける。
それは恨むには十分すぎる過去と、哀れな復讐鬼の話だった。
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ちゅん(プロフ) - 続編と番外編が読みたいのですが、パスワードって教えていただけないのでしょうか? (2022年4月22日 15時) (レス) id: 1fdd2ab3eb (このIDを非表示/違反報告)
あいる - 初めまして!!こんな神作初めて出会いました。ほんとにほんとに素敵です。お気に入り作者にしてしまいました。パスワードのヒントと作品にてオススメという形で載せたいのですがダメでしょうか?? (2020年11月14日 23時) (レス) id: 23cef4f251 (このIDを非表示/違反報告)
眠猫 - 番外編のパスワード載ってないので教えてくれないでしょうか?作者作品一覧に載ってるのは違う番外編のパスワードのようなので……… (2019年1月28日 18時) (レス) id: b6571f87b9 (このIDを非表示/違反報告)
神無月(プロフ) - 作者の作品一覧の所にパスワードというか、ヒントが載ってますよ (2018年4月22日 19時) (レス) id: 7b5ab892e2 (このIDを非表示/違反報告)
夢雪 - 番外編を読みたいのですが、パスワードがわかりません。どうすれば?…… (2018年4月21日 21時) (レス) id: a2e26e90a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:遥 | 作成日時:2017年12月16日 21時