72話 ページ36
「君…どうしてここに」
遠い街へと引っ越したと、降谷から聞いていた。
もう会えるようなことも2度と無いのだろうと思っていたのだ。私の、せいで。
それなのに、成長したこの子は今目の前にいる。
「…どうしてって、私、貴方にもう一度会うためにここにもう一度戻って来たんです。貴方と同じ道を志して、親の反対を押し切って、ここに戻って来ました」
「………」
「ずっと会いたかったんです。頑張って勉強してここに来ました。今日という日を、私がどれだけ心待ちにしていたか。」
「ッ、」
そんなの、私だって。
言いかけた言葉を寸で飲み込む。
「……それに私、怯えていた上に、取調べとかで、貴方に結局お礼も、謝罪の1つも出来なかった。
出来ないまま引っ越して、私ずっと、それだけが心残りでした。」
「君が謝ることなんて…!謝らなければいけないのは、私の、」
「なんでお姉さんのせいになるんですか…!!」
瞳いっぱいに涙を溜めた彼女の姿に、言いかけた言葉を思わず忘れてしまう。
結局は瞳の中から溢れ出したその涙は床に染みを作っていく。
「斎藤先生が言ってました。ずっと何かに取り憑かれたようにしてお姉さんが立ち止まらないって。ずっと自分を責めているって、死んでも死に切れないって!
私が謝罪も、お礼の1つさえ言うことも出来なかったせいで、ずっと、ずっと自分を責めいたなんて!」
責められるべきなのは私じゃないですか。
違う、そんな言葉が聞きたいんじゃない。やっぱり私のせいじゃないか。君にそんな言葉を言わせたいんじゃない。君のせいなんかじゃない。私のせいじゃないか。
「どっちも悪くなんかねえだろ」
今まで傍観していた斎藤先生が口を挟む。
「遠山は警察として模範的な事をしたんだ。人と秩序を守ることが警察の役目だ。神崎だってまだ子供の頃だったんだ。怖い事やトラウマは仕方のねえ事だ。誰も、遠山だって責めやしねえよ。な、そうだろう?」
「でも、」
「……結果として、お前らはこの10年、自分のせいだと責め続けて来たんだ。ならもう、それでおあいこにしてやろうぜ」
「……」
「自分で自分を許してやらなきゃ、先には進めねえよ」
後はお前らで話し合え、と斎藤先生は指導室から出て行き、私とこの子の2人だけになる。
沈黙の中、彼女の鼻をすする音と、涙が地面に落ちる音が響き、居たたまれなくなる。
頭の中で斎藤先生の言葉が反芻する。
自分で自分を許してやらなければ、先には進めないと。
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ちゅん(プロフ) - 番外編みたいです(;_;)パスワード知りたいです( ; ; ) (2021年3月7日 14時) (レス) id: 1fdd2ab3eb (このIDを非表示/違反報告)
闇月 - イラストが最高で思わず保存したいと思ってしまいました! (2019年9月25日 19時) (レス) id: ceaacc411b (このIDを非表示/違反報告)
莉子(プロフ) - なんかもう理想すぎるストーリーが見つかってまだまだこれから頑張れる。ありがとうございます。これからも頑張ってください。 (2018年4月28日 12時) (レス) id: 6434e4011a (このIDを非表示/違反報告)
まさき(プロフ) - 蒼衣さん» こんにちは!いきなりごめんなさい…。用件は下の私のコメントと同じです。よかったら見てみてください! (2018年4月22日 22時) (レス) id: 8f71bf94c7 (このIDを非表示/違反報告)
まさき(プロフ) - 湊叶さん» こんにちは。突然すみません!パスワードなんですが、作者さんの作品一覧のページのコメントを見ると書いてありますよ!脇から失礼しました! (2018年4月22日 22時) (レス) id: 8f71bf94c7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:遥 | 作成日時:2017年10月23日 18時