70話 ページ34
「遠山、ちょっといいか」
全ての講習を終え、着替えもしたところで帰るかと思っていたところ、斎藤先生に呼び止められる。
私だけ呼ばれ、きょろ、と同期や秀一さんを見れば、言外に『言ってこい』と言われるのがわかった。
先生についていくままに案内されたのは生徒指導室。
よくここは松田や萩原と、よくやらかす面子達が呼び出されていたものだなと懐かしく思う。
先生が扉を開けて、入れ、と言われ、言われるままに入る。
年季の入った独特の雰囲気が充満していた。
その生徒指導室のソファに1人の女子生徒が座っていて、私に気付くなり、焦ったように立ち上がって一礼する。
……あれ、そういえばこの子は。
「君、確か私をみていた…」
あの時、武道場で私を見ていて、すぐに視線を逸らしたあの子だった。
妙にかしこまった態度な上に、「す、すみません…」と心底申し訳なさそうに頭を俯かせてしまったので、焦って顔をあげて欲しいと言う。
「あー…遠山、こいつの名前は、」
「せ、先生！私から言うので大丈夫です！…え、えっと、今日はご指導いただきありがとうございました。わ、私の名前は…」
もごもごと、名前をいうのを何故か躊躇っており、それでも言うのを待っていると、覚悟を決めたように、その子は私の目を見た。
「か、神崎桜です。」
戸惑いながら言われたその名前に、頭を殴られたような衝撃が走る。
は、と言葉にならない中途半端な音が口から漏れた。
そんな、だって、その名前は。
「きみ、…きみ、は……」
思わず口を押さえて、少し後ろに下がってしまう。
片方の手は手汗が止まらなかった。額からも汗が流れて、頬を伝う。
どうしてここに君がいるんだ。君がいるはずないだろう。だって君は、
『おねえさん！』
忘れもしない。ずっとこの10年間、忘れもしなかったあの声色。
幼い子供が私を泣きながら呼ぶあの声を、私は一度も忘れたことなどなかったよ。
10年前の、あの煩わしい雨音が、聞こえてくるかのように耳鳴りがした。むしろ頭の中で、あの日の雨音が響いていた。
君は遠くへ行った筈じゃなかったのか。
心に傷を負わせてしまった。私のせいで。
神崎桜。
私が助けたあの少女。
そして私が、心に傷を負わせてしまった、あの少女。
記憶の中よりずっと背も高くなって、面影は少し残したまま成長した彼女が、目の前に、私の前に立っていたのだ。
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ちゅん(プロフ) - 番外編みたいです(;_;)パスワード知りたいです（ ; ; ） (2021年3月7日 14時) (
レス) id: 1fdd2ab3eb (このIDを非表示/違反報告)
闇月 - イラストが最高で思わず保存したいと思ってしまいました！ (2019年9月25日 19時) (レス) id: ceaacc411b (このIDを非表示/違反報告)
莉子(プロフ) - なんかもう理想すぎるストーリーが見つかってまだまだこれから頑張れる。ありがとうございます。これからも頑張ってください。 (2018年4月28日 12時) (レス) id: 6434e4011a (このIDを非表示/違反報告)
まさき(プロフ) - 蒼衣さん» こんにちは！いきなりごめんなさい…。用件は下の私のコメントと同じです。よかったら見てみてください！ (2018年4月22日 22時) (レス) id: 8f71bf94c7 (このIDを非表示/違反報告)
まさき(プロフ) - 湊叶さん» こんにちは。突然すみません！パスワードなんですが、作者さんの作品一覧のページのコメントを見ると書いてありますよ！脇から失礼しました！ (2018年4月22日 22時) (レス) id: 8f71bf94c7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：遥
| 作成日時：2017年10月23日 18時
