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「云いたい事がある、と云っても、今の君に云っても屹度解らないと思います。
元に戻った君が、覚えて居るかどうか迄は判りませんが、折角の機会です。少し、お話しさせて下さい」

あんごさんが話し出したのは、少しあんごさん自身の身の上の話をふくめたものだった。
未来のおれとは出会ってはいないものの、あんごさん自身がほぼ一方的に知っているような形らしい。
決して変な意味ではなく、元々はだざいさんにたのまれたのが始まりらしい。

「私と太宰君は、……過去に少々色々ありましてね。友人と呼べる様な気安い関係では無くなりました。
私と彼がこうも変わってしまった出来事は、君も無関係では無い」

「……」

「太宰君は君の事が心底大事なんです。未来の君に置いて行かないでと懇願する位なんですから。
屹度君は全てを置いて太宰君の前から去る事だって出来た。でも其れをしなかった。
……君だけなんです。太宰君の元から離れていなかったのは」

しぼりだしたような声色に、胸がくるしくなる。
…未来のおれに、何があったかなんて知らない。この人はきっと教えてもくれないだろう。何かをかくしながら、話をしているから。

でも、どこか納得した。だざいさんがおれにあんなに優しいのは、きっと、

「屹度太宰君は、何処にでも居るような君だから、友達になれたのが嬉しかったんです。
普通とは縁遠い場所にずっと居た彼には、君と友達になれたのが、何より嬉しかった」

その言葉を、未来のおれに伝えればいいのに、と云っても、あんごさんは首を振る。
「云ったでしょう。未来の君と出逢える事は無いと」と困ったようにあんごさんは笑う。

「本当は僕は、こんな事は云える立場じゃ無い。僕がもっと上手くやれていたらと、ずっと後悔しています。
けれども君には一度云いたかった。




……有難う。屹度辛かっただろうに、織田作さんの事も、太宰君の事も、忘れずに居てくれて。」

「………」

「……太宰君と、友達になってくれて、有難う」

立ち上がったあんごさんが、手をのばしてくる。
ひかえめになでられたそのなで方が、なぜか懐かしく感じた。




『織田作さん、俺もう子供じゃないです』





誰かもわからない声が、一瞬聞こえた。


困っている口ぶりなのに、声色は、うれしそうに、感じた。





会議室の外で聞き耳を立てながら話を聞いていた太宰さんが、微かに笑っていたのは、おれもあんごさんも、知らないままだった。

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遥@携帯の調子悪くて返信遅れます(プロフ) - コメント一括にて失礼します。最近携帯の調子悪いので…皆様お待たせしました。次の話でとりあえずは彼の話は一旦終わりとなります。最後まで書き切りますので、それまで見てくださると嬉しいです。 (2019年10月13日 20時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
至恩(プロフ) - お久しぶりです!わーい更新だー!って通知見て思いました! (2019年10月13日 7時) (レス) id: 77907255a2 (このIDを非表示/違反報告)
月夜の死神(プロフ) - わわ…!更新待ってました!これからも頑張って下さい! (2019年10月13日 1時) (レス) id: eb1a5cc196 (このIDを非表示/違反報告)
- どストライクで大好きな作品です!応援してます!! (2019年9月27日 13時) (レス) id: 62feb543dd (このIDを非表示/違反報告)
フェルト - すごく大好きです!頑張ってください! (2019年9月26日 18時) (レス) id: 00cb91440a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年2月15日 19時

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