65 ページ19
夢を見た。
そんなに昔というわけでもない。
……否、そこまで昔の様に感じなくなっただけなのかもしれないな。
何せ、中学に上がってからの三年間からは時間というものがあっという間に感じる様になったし、高校の三年間なんてそれこそもっとだ。勉強や遊びに費やして、三年なんかでは足りない時間があっという間に過ぎた。
五つ下の弟と、さらに七つ下の妹が俺には居る。
その夢は幼い頃の俺と弟の夢だった。
遊具で遊びたいと駄々を捏ねた弟に少しだけだと云って近くの公園に連れていって遊ばせた記憶。
只ほんの一瞬。ほんの少し、只、近くを通りかかった車に目線を向けただけだったと思う。
どさりと何かが地面が落ちた音がして振り向けば、其れは、割りと高さがあった枠登り──世間一般的には、ジャングルジムと呼ばれるものの一番上から、落ちていた姿だった。
幼い子供が咄嗟のことで受け身なぞ真面に取れるわけもなく、何もわからない、無知な頃の俺でさえ、弟の足が折れている事は一目瞭然だった。
「─────ッ！！」
足が折れた激痛で悶え苦しみ、泣く弟に何も出来なかった。近くには人すら居ない。誰かに助けを求め様にも、弟の側を離れる事も出来ない。
何よりも、俺自身も突然の事による混乱と恐怖で、弟の手を握り締めるしか出来なかった。
じわじわと瞳に涙が溜まっていく。
俺も泣きそうになる。けれど、泣いてはいけない。一番辛いのは、痛いのはこの子なのだ。
俺は、お兄ちゃんだから。何としてもこの子を守らないといけないんだ。
祈る様に、叫ぶ。誰か、誰かと叫んだ。
俺の叫び声か、或いは、弟の泣き声が聞こえてきたのか、向こう側から忙しなく駆けてくる白衣姿の医者と思わしき人物がやって来る。
「───君達、如何したの！？」
今思えば、何処か頼りなさげだなと思ったけれど、其れでも俺も弟も、その人によって窮地を救われた。
適切な処置とテキパキと行ってくれて、後から遅れてやってきた、少し怖そうだけれども俺を落ち着かせてくれた別の人は弟を背負い、医者の人は俺の手を引きながら病院へと連れていってくれた。
人は声から忘れていくという。
だから、正直その人の声は余り覚えて居ないけれど、顔だけは、今でも鮮明に覚えている。
あれから数年。俺は今、少しくらいは、貴方に近づけていますか。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 853人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
遥(プロフ) - 勿論不快にさせた事実は変わりませんが、改めまして女狐呼びは後日修正させていただきます。公式からの呼び名がもし出たらその際はまた変えるかもしれないです。今回はお騒がせしてしまい申し訳ありませんでした。 (2019年7月28日 1時) (
レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
遥(プロフ) - ららさん» 妲己、というのもよく考えたら失礼かなと思ったので追記を。前記の通りキャラを貶す意図はなく、クリスティ爵の残酷な面が垣間見える彼女の言葉一つで街を焼ける、といった権力の強さに狐であった妲己のようだ、といった自分の解釈もあります。→ (2019年7月28日 1時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
遥(プロフ) - 呼び方の方は後日修正させていただきます。コメントありがとうございました。 (2019年7月27日 23時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
遥(プロフ) - 誤解を招くようですが、クリスティ爵はとても好きです。映画で動いて声もついたのは本当にとても嬉しかったです。映画のイメージで「こう言う感じの方かな」と言ったイメージが先走ってしまって申し訳ありません。それと夢主持ち上げ、というよりはその辺の→ (2019年7月27日 23時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
遥(プロフ) - ららさん» といった意味で女狐呼びをさせていました。軽率にしてしまい申し訳ありません。情報が少ない方なので、私なりの解釈等も混ざってしまい、呼び方等に不快な思いをさせてしまって申し訳ないです。決してキャラを貶すために使ったものではありませんでした。→ (2019年7月27日 23時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：遥
| 作成日時：2018年11月13日 18時
