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・太宰視点
「何してるんだ」
唯一言。
近寄って来た渡瀬君は、まるで芥川君を庇うように蹲っている芥川君の前に立った。
……芥川君に銃を向けていたから、必然的に渡瀬君に向ける形になって、指先が冷える。心臓も冷える。
彼にこんな物を向けるのが心底厭で厭で────だから、直ぐに銃を下ろした。
……渡瀬君の足が小さく震えている。
「この子、この間の後ろに立っていた子じゃないの」
「……君には関係ないだろう」
踏み込まないでくれ。どうか此方側に、踏み込まないでくれ。
君に知られたくない。君を巻き込みたくない。どす黒く渦巻いた黒社会の闇の一片たりとも、君は触れないでくれ。
君にはそのまま綺麗であって欲しいのに。
それでも、今迄は空気を読んで何も聞かず、何も云わなかった渡瀬君は今回ばかりは譲らなかった。
「俺はまだ所詮看護学生の身だよ。出しゃばるなと思うだろう。けれど俺はいつか看護の道に進む為に一人でこの地に来た。
……未だ小さかった下の子が大怪我した時、手当も何も出来なかった自分が歯痒かった。兄なのに、何もしてやれなかった事が心底悔しかった」
「……」
「だから、この怪我をしていて、病弱なこの子がいるから、俺も今回は譲らない。赤の他人であってもだ。
…だから今日だけ、たったこの一度だけ、踏み込ませて欲しい」
震えながらも決して私から目を逸らさない渡瀬君に、何も云えなくなる。
彼は何処までも一般人だ。何処にでも居る、普通の青年だ。その足元に蹲って居る、赤の他人である芥川君の為に、君は、其処迄するのか。
何時もだったら非情になれるのに。
赤の他人であるのなら、見られてしまった口封じにでも撃てるのに。そんな事は、彼相手には出来ない。
胃袋を掴まれた──たった其れだけの事で。私を怖がりもせずに、純粋な笑顔を向けて絡んでくれる人間が、私にとって初めてだったのだから。
「……太宰君は、マフィアか何かなのか」
確信を彼は口にする。
マフィアである私は撃てと頭の中で囁いているのに、『太宰治』はそれを頑なに拒んだ。
撃てる訳がない。そんな事、私が出来るはずもない。
「───そう。君がいずれ就くであろう職業からしたら、きっと許し難い、このヨコハマの闇と黒を支配する組織。
───ポートマフィア幹部、太宰治。それが私だよ」
それを口にした事で、ああ、怖がられるのだろうな、と何処か諦観した自分がいた。
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零 - 未だに太宰のSSRが来ない😭(やり始めて1年半です) (3月4日 6時) (レス) @page38 id: 384173ed73 (このIDを非表示/違反報告)
安息香酸 - コメント失礼します。もし良かったら番外編のパスワード教えて頂きたいです! (9月8日 14時) (レス) id: 7f39e79d81 (このIDを非表示/違反報告)
おしとう(プロフ) - ミナさん» コメント失礼致します。もし可能でしたら番外編のパスワード教えていただきたいです!! (2023年3月4日 21時) (レス) id: b3cffe0f1c (このIDを非表示/違反報告)
ミナ - 番外編のパスワードを教えてもらいたいです! (2022年3月12日 18時) (レス) id: edad4e8a78 (このIDを非表示/違反報告)
ama846(プロフ) - コメント失礼します。もしよろしければ番外編のパスワードを教えて頂けませんか? (2021年12月19日 21時) (レス) id: bfb29f0477 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:遥 | 作成日時:2018年9月28日 16時