番外編【その後露西亜旅行にまで誘われる仲にはなる】 ページ25
「其処の、君」
後ろから白衣を弱い力で引かれて、何事かと振り向けば、ふわふわした帽子を被った、血色の悪い青年が俺の白衣を引いていた。見た所、外国人の様だ。
若しかして具合が悪いのか───大丈夫ですかと声を掛けようとした時、くぅ、と青年の腹から小さな虫の鳴き声が聞こえた。
「すみません、お腹が空きました。何か持っていませんか」
如何やらこの青年、お腹が空いている様である。
近くのベンチに青年を座らせて、俺も隣に座る。
今日は予定していた講義が、先生の急用により突如中止となって、持ってきた弁当は要らなくなってしまったのだ。
多分、青年が話しかけて来たのは匂いか何かがしたのだろう。
「お弁当食べる?」
「……ぼくから話しかけておいて何ですけど、善いんですか」
「その腹の虫の音を聴いたらね…まあ色々あって弁当は要らなくなったから、食べても善いよ」
「お兄ちゃんお腹すいた」とお腹を空かせた弟と妹に強請られて飯を作って来た男なので、如何してもこう云うのは無視が出来ない性分だ。自分でもお人好しだとは思うのだが。
弁当を受け取った青年は、お箸を見て「?」顔である。あっ、そうだこの人外国の人だ。多分お箸の使い方分からないんだ。
猛ダッシュで近くのコンビニに走ってフォークを貰ってくる。
「此れなら使える?」と聞けば「…面倒見良すぎますね。ありがとうございます」と云われた。お箸使えないなら仕方ないだろ。
青年が弁当を食べ終わるまで待っては居たいが、実はこのあと俺はバイトが入っている為正直待っている時間はない。
「俺この後バイトあるからもう行くよ。その弁当箱、貰うなり捨てるなり何なりして善いから」
「え、でも君、」
じゃあごめん、俺もう行くね!とその場を走って後にする。
弁当とフォークを持ってぽつんとその場に取り残された青年は、とりあえず弁当を開けて卵焼きをフォークに刺して食べ出した。
「…………あ。おいしい」
日本食は話に聞いていた通り美味しいんですね。と黙々と食べ続ける青年。
お世辞にも食いっぷりが善いとも、体格が良いとも言えない青年にしては久し振りにちゃんと全部を平らげる料理は久しぶりで、とうに走って行く背中が消えた方向を見て、「……お箸の持ち方練習しますかね」と呟いた。
そしてその後、「日本観光に来たので案内してください」と、ズルズルと数年来の関係となり、律儀に弁当箱まで返しに来たこの男、ドストエフスキーとの出会いの日だった。
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零 - 未だに太宰のSSRが来ない😭(やり始めて1年半です) (3月4日 6時) (レス) @page38 id: 384173ed73 (このIDを非表示/違反報告)
安息香酸 - コメント失礼します。もし良かったら番外編のパスワード教えて頂きたいです! (9月8日 14時) (レス) id: 7f39e79d81 (このIDを非表示/違反報告)
おしとう(プロフ) - ミナさん» コメント失礼致します。もし可能でしたら番外編のパスワード教えていただきたいです!! (2023年3月4日 21時) (レス) id: b3cffe0f1c (このIDを非表示/違反報告)
ミナ - 番外編のパスワードを教えてもらいたいです! (2022年3月12日 18時) (レス) id: edad4e8a78 (このIDを非表示/違反報告)
ama846(プロフ) - コメント失礼します。もしよろしければ番外編のパスワードを教えて頂けませんか? (2021年12月19日 21時) (レス) id: bfb29f0477 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:遥 | 作成日時:2018年9月28日 16時