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「……月彦さん、どうなさいましたか?」

 ムスッと眉を寄せる無惨さま、もとい月彦さまは麗さんにそう問われ、ぱっと笑顔を向け「何でもない」と言った。私は召使いの人たちに紛れて並びながら、改めてあの変わりようは凄いなぁと思う。
 人間に紛れるとき、無惨さまはうまい具合にそれぞれの人間を演じてみせるのだ。
 すごい人だなぁ〜、と呑気に感心していたら、無惨さまがギッと私を睨む。月彦の性格的にあんな顔して大丈夫か? とか思うけれど、他の召使いに見えない角度を計算しているのだから恐ろしい人。私が小さく手を振って反応を示すと、無惨さまはなぜかため息を吐いた。なんで?

「麗さん、今日は体調が悪いから、私は部屋で食べることにする」
「あら……それは心配です。あとでお食事を運びましょうか」
「いや、今運ばせる……お前」

 お前、のときに無惨さまが私を指さした。慌てて私は真面目な召使いとして、はい、と返事をする。

「食事を私の部屋に持ってこい」
「かしこまりました」

 先に月彦さまの私室に戻った無惨さまを追いかけ、盆に食事を乗せ部屋に向かう。

「月彦さま、お食事をお持ちしました」
「入れ」

 扉の向こう、無惨さまは窓を開け、月を見上げていた。赤い瞳が私を射抜く。

「A」
「なんでしょう」

 無惨さまは私に近寄り、片手で両頬を掴む。私は家鴨のような唇になって、むぐっと声を漏らす。無惨さまは噛みつきそうなくらい私に鼻を寄せて、恨めしげに目を細めた。

「なぜ、あの服を、着ない?」

 私はえへ、と笑ったつもりだけれど、うぇ、みたいな声になった。私がもごもご言い訳を言うと、無惨さまは手を離し、話を聞いてやらなくもないみたいな顔を見せた。

「無惨さま、考えてくださいよ。私は召使いとして紛れなきゃいけないんだから、あんな派手な服着れないでしょう?」

 ちょっと冷静になれば分かるだろうに。今度は自主的に唇を尖らせると、無惨さまが再び目を細めた。

「その服の下に着れば良いだろう」
「なんて強引な!」

 ふん、と鼻で笑う無惨さま。私は無惨さまの机にお食事を配膳しながら、ふぅと肩から息を吐いた。

「もう……なんでそんなにあの服を着せたいんですか」

 無惨まが顔を上げる。

「そんなの、私が見たいからに決まっているだろう」

 ばぁん、と私の手元からお盆が落ちる。
 硬直する私にしかし、無惨さまは自覚がないようで、不思議そうに首を傾げていた。

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モブちゃん - 無惨様、優しい!マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです!というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く!素敵な作品ありがとうございます! (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…?! (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりんの木 | 作成日時:2019年10月22日 21時

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