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「……無惨さまっ!」

 ばん、と勢いのまま玄関を開け放てば、すぐ目の前に、足を組んで本を読む無惨さまがいた。ちょっと驚いた顔をする無惨さまの胸めがけ、私は走って飛び込んだ。
 私の頭の上あたりからぐっと鈍い声が発せられるけど、構わず私はぎゅうぎゅうと無惨さまの薄い胸にしがみついた。

「嫌です、無惨さま、私は嫌です!」
「意味がわからないからとにかく離れろ」
「離れたくありません! 嫌ですっ!」

 無惨さまが私の腕を引き離そうとするので、嫌だ嫌だと喚いて、もっと腕に力を込めた。はぁ、と無惨さまがため息を吐いて私の背中に手をまわすと、そのまま私を抱きあげて、別の部屋にある大きなソファにまで移動した。
 ぼふん、と無惨さまがソファに沈み、私は無惨さまの胸に顔を寄せたまま、無惨さまのお膝の上に座り込む形でおさまった。

「……何があったか言ってみろ」

 とん、と一回頭を撫でられ、私はおずおずと無惨さまを見上げた。梅干しみたいな赤い瞳、優しく、厳しく、いつも真っ直ぐ私を見守る瞳、大好きな瞳。

「……無惨さま、私のせいで無惨さまが捕まってしまうかもしれません」

 大切な無惨さまに、私のせいで危害が加わってしまったら。私の目の前から居なくなってしまったら。考えるだけで、震えてしまう。

「なぜだ?」

 無惨さまは私の頬をつついたりしながら、大して深刻そうな態度もなくそう聞いた。もっと驚いたり、怒ったりするかもしれないと思ったのに、まるで私がつまらないジョークを言い出したときみたいな反応だ。私はかえって、そんな無惨さまの反応に、心の冷静さが蘇ってきた。

「実は近頃、私のよく買い出しに行く街の周辺で、若い女性が行方不明になる事件があって……」

 私が聞いた事件について。茶屋で出会った青年が言っていた言葉。私が拙いながらも伝えると、無惨さまは顎に手を当て、うっすらと目を細めた。

「ーーふむ。それでAは、その青年が自分を……Aを疑っているのかどうかを心配しているんだな?」
「そうです……」

 無惨さまはふっと笑った。

「……なぜAが疑われることで、私が捕まる?」

 それは、と呟いて、私はちょっと唇を尖らせた。

「無惨さまは鬼たちのボスで……私は無惨さまのAだからです」

 言いたいことは多くあるようで。
 無惨さまは小さく笑うと、むに、と私の唇をつまんだ。

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モブちゃん - 無惨様、優しい!マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです!というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く!素敵な作品ありがとうございます! (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…?! (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりんの木 | 作成日時:2019年10月22日 21時

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