第九話 ページ10
*
「……なんで、そんな顔すんだよ」
自分でも分からない。お金は、欲しいはずだ。そのためにアルバイトを始めたのだから。おそらくトムラさんたちはお金に困っていないから、私に数万円渡そうとも痛くも痒くも無いのだろう。
でも、嫌だった。
私があのお金を受け取ったら、崩れてしまうものがあると思ったから。
私はトムラさんとの間に崩したくない何かがあるのか。そんなに大切なものが。青い花が咲いて、悲しい悲しいと心が叫ぶほどの、繊細な何かが。
トムラさんは何も言わない私を見て、苦しそうな顔をした。私は唇を噛み締めていた。涙は出てこない、ただ青い花がひらひらと散る。トムラさんが焦れたように私を見る。そうして、掠れた声で囁いた。
「もう言わないから……そんな顔、すんじゃねぇよ」
トムラさんは服の胸元を握りしめると、まるで心臓でも痛いみたいに顔を歪める。
そんなこと言うけど、トムラさんだって。
ごめんなさい、と心の中で吐き出す。私こそ、そんな顔させてごめんなさい、トムラさん。
トムラさんはふと何かに吸い寄せられるように、フラフラと歩いていった。私はそこに突っ立ったまま、薄黒いアスファルトを見つめる。
視界に影がかかった。顔を上げると、そこにはソフトクリームを2つ手に持ったトムラさんがいた。片方のソフトクリームを私の方に差し出す。私は目をぱちくりさせてそれを受け取った。周りを見渡したら、少し先にソフトクリームの看板が見えた。私はもう一度トムラさんを見て、ソフトクリームを見つめた。
ぺろりと、一口舐めた。
「……えへへ」
ソフトクリームは、甘く冷たかった。笑顔が滲み出るほど。
「甘いモンで機嫌治すとか、やっぱ単純だな」
トムラさんは馬鹿にしたように笑いながらも、少し目を見開いて、新しい玩具でも見つけたみたいに舌を出した。私も同じように舌を出してソフトクリームを舐める。白くてとろとろとしたこの甘い甘い物体は、私の中の硝子の花を包み込んだ。
「トムラさん」
歩き出した私は、隣を歩くトムラさんを、今度はしっかりと見上げた。
「ありがとうございます」
肩の力を抜くようにへにゃりと笑うと、トムラさんはなぜだか、とても嬉しそうに、また同時に馬鹿にしたように笑って、私の口元に手を伸ばした。
「ついてる」
そう言って指で拭ったソフトクリームを、赤い舌でべろりと舐めるのだった。
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ちゃこ(プロフ) - うぅ…好きです！！今なら私も花咲かせられそうです😭！前から気になっていた弔くん…無事推しになりましたありがとうございます！！ (2022年5月25日 5時) (
レス) @page50 id: e4e61dc8c5 (このIDを非表示/違反報告)
mikitty(プロフ) - 完結おめでとうございます！最高でした！ (2020年8月18日 1時) (レス) id: 05ebd46207 (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - はなかっぱ… (2020年2月4日 3時) (レス) id: 86c077b51d (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - すごく良かったです！！！死柄木君の小説は初めてだったんですけど、もう最高すぎました！！ (2019年11月5日 22時) (レス) id: a8dea294c9 (このIDを非表示/違反報告)
オーバー - 完結おめでとうございます！最後までキュンキュンさせていただきました！！ 占ツクを徘徊していた時に、とんでもなく良いこの作品を見つけてからは、ずっと応援していました(´ω`*) もちろんこれからも応援しています、頑張ってください！！ (2019年8月25日 22時) (レス) id: 50e4bb27d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きりんの木
| 作成日時：2019年6月13日 19時
