第四十六話 ページ47
*
「……ずいぶんと勝手な男だな」
呆れたように言う若頭はしかし、止める気は無いらしい。さっさと応接間を出ようとするトムラさんの肩越しに彼を見つめると、若頭は徐に片手を上げた。それが別れの挨拶だと気がついて、私は頬を緩めた。最後に見た若頭もかすかに、私につられたように柔和に目を細めるのだった。
◇◇
私を担いだまま地上へ出たトムラさんは、黒霧さんを呼び寄せるとすぐにバーへとワープした。見知ったソファに下ろされた私に、手のひらを外したトムラさんの顔が迫る。
住む世界が違う、だとか、私といると迷惑がかかっちゃうから、とか、頭の中にいくつもいくつも迷わせるような言葉が浮かぶけれど、トムラさんを前にそれらはみんな無力も同然だった。
私はただ好きなんだ。トムラさんのことが。彼がヴィランだろうがなんだろうが、好きなんだ。私に詰め寄る表情を消したトムラさんが私の頬から顎へのラインをなぞったとき、私は花を咲かせた。トムラさんは咲きたてのピンクの花びらをつまむと、面白そうに片眉を上げた。
「ピンクはどういう感情なんだ？」
「……せっかく新しく仕事先見つけたのに、またクビになっちゃったって怒ってる気持ちです」
分かってるクセに。私が口を尖らせてそう言うと、トムラさんは可笑しそうに口角を上げた。そしてふっと目を伏せると、かすかに怒りの滲む、悲しそうな瞳で私を射抜いた。
「俺がAをクビにした理由……分かってんのか？」
「すぐ誘拐される私に呆れたからじゃないんですか？」
トムラさんは微妙そうな顔をした。どうやら違うらしい。じゃあなんですかと聞いたら、トムラは私の髪を撫でながら呟いた。いわく、痛い思いをさせたくなかった、と。
私は目を見開いた。なんてちっぽけな理由。私はトムラさんと一緒に過ごして、傷つく覚悟なんてとっくの昔に出来ていたのに！
「……トムラさん、私嘘つきました」
言って、トムラさんの後頭部を引き寄せる。唇をかすめる温度、一瞬だけ混ざる吐息。まつ毛がぶつかりそうな位置にトムラさんの赤い瞳。私から送ったキスに、トムラさんは目を見開いた。
「ピンクは、大好きって気持ちです。トムラさん、私トムラさんが好きですよ。だから怪我なんて怖くな＿＿」
言葉は、トムラさんの口に呑み込まれて消えた。後頭部の手も、私の唇を舐める舌も、何もかもが愛おしくて仕方がなかった。
トムラさんは顔を離すと、息を吐き、かすかに震えた。
*
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1183人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ちゃこ(プロフ) - うぅ…好きです！！今なら私も花咲かせられそうです😭！前から気になっていた弔くん…無事推しになりましたありがとうございます！！ (2022年5月25日 5時) (
レス) @page50 id: e4e61dc8c5 (このIDを非表示/違反報告)
mikitty(プロフ) - 完結おめでとうございます！最高でした！ (2020年8月18日 1時) (レス) id: 05ebd46207 (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - はなかっぱ… (2020年2月4日 3時) (レス) id: 86c077b51d (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - すごく良かったです！！！死柄木君の小説は初めてだったんですけど、もう最高すぎました！！ (2019年11月5日 22時) (レス) id: a8dea294c9 (このIDを非表示/違反報告)
オーバー - 完結おめでとうございます！最後までキュンキュンさせていただきました！！ 占ツクを徘徊していた時に、とんでもなく良いこの作品を見つけてからは、ずっと応援していました(´ω`*) もちろんこれからも応援しています、頑張ってください！！ (2019年8月25日 22時) (レス) id: 50e4bb27d4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：きりんの木
| 作成日時：2019年6月13日 19時
