第四十四話 ページ45
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「今日お客さんがいらっしゃるんですよね。そのマスク外さなくてもいいんですか？」
その日、応接間の掃除を仰せつかった私は、その部屋の掃除の途中、監視をしに来た若頭にそう尋ねた。
「あぁ、外さない」
冷たく言い放つ。いわく若頭は、素手で人に触れると蕁麻疹が出てしまうほどの潔癖症らしい。だからペストマスク、だからあの厳しいチェック。不覚にも私は、自分の握る雑巾が重たくなるように感じた。
「……にしてもそのマスク、オシャレですね」
机の足についた埃を取りながら、ソファで監視を続ける若頭に声をかける。若頭は足を組むと、しばらくぼんやりと私を見続けて、やがて口を開いた。
「お前、馬鹿だろ」
「えっ……！」
そんな冷めた様子でそんなことを言われたのははじめてなので、かなりの衝撃を受ける。様子を見ていて分かったのだけれど、若頭はかなり頭がいい。私は勉強は苦手な方では無かったので、それも相まって結構悲しい気持ちになった。
私は、馬鹿なのだろうか。
「馬鹿じゃ、無いと……信じたいです……」
語尾が弱くなってしまったのは、ふと蘇る記憶があるからだ。もし私がもっと賢かったなら、今頃まだトムラさんたちと働いていたかもしれない。私が馬鹿だったから、呆れて解雇されたのかもしれない。
はっと息を呑んで、止めていた手を動かす。木製のテーブルの埃を丁寧に丁寧に取り除いていたら、指先にひりりと一筋の痛みが走った。
「……っ」
木のトゲが私の皮膚を裂いていた。それもそこそこ大きいサイズの。傷よりも大袈裟な痛みに身じろぎをすると、いつの間に咲いたのか、青い花びらが床に広がった。バイ菌が入る前に洗わなければ、と立ち上がろうとする私の腕を、掴むものがあった。
「なんだ、棘が刺さったのか」
若頭はそう言うと手袋を外し、器用に爪の先で木の棘を抜くと、私の指先に触れた。え、と私が声を発するより早く、くすぐられているような、ぐちゃぐちゃに乱されてるような、不思議な感覚が指先から広がった。そして解放されたときには指先にはトゲはおろか、トゲが刺さっていた痕までもが綺麗に無くなっていた。
「すごい……これが若頭の個性ですか？」
否定も肯定もしない若頭は、私の肩の花びらをつまむ。その肌に、蕁麻疹はない。
「とっても役に立ちそうな個性ですね！」
ぱっとまた花が開いた。
再び咲いた黄色い花に、若頭はほんの少しだけ、悲痛そうに目を細めるのだった。
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ちゃこ(プロフ) - うぅ…好きです！！今なら私も花咲かせられそうです😭！前から気になっていた弔くん…無事推しになりましたありがとうございます！！ (2022年5月25日 5時) (
レス) @page50 id: e4e61dc8c5 (このIDを非表示/違反報告)
mikitty(プロフ) - 完結おめでとうございます！最高でした！ (2020年8月18日 1時) (レス) id: 05ebd46207 (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - はなかっぱ… (2020年2月4日 3時) (レス) id: 86c077b51d (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - すごく良かったです！！！死柄木君の小説は初めてだったんですけど、もう最高すぎました！！ (2019年11月5日 22時) (レス) id: a8dea294c9 (このIDを非表示/違反報告)
オーバー - 完結おめでとうございます！最後までキュンキュンさせていただきました！！ 占ツクを徘徊していた時に、とんでもなく良いこの作品を見つけてからは、ずっと応援していました(´ω`*) もちろんこれからも応援しています、頑張ってください！！ (2019年8月25日 22時) (レス) id: 50e4bb27d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きりんの木
| 作成日時：2019年6月13日 19時
