第三十七話★ ページ38
★
＿＿なんて綺麗なんだ、と思った。価値も無いような個性を誇らしげに笑う彼女は、なんて。
街中に張り巡らせた情報網、その一つから、敵連合の男が別の組織の敵から攻撃されたと知らされた。同時に、一緒にいた一般人の女の情報も入った。頭に大きな花が咲くという、人畜無害で悪用も活用も出来ないような個性を持つ、女の情報が。
死柄木弔は驚き、黒霧を呼ぶとすぐにその場に向かった。そして、個性を使われ地面に沈むように消えてゆく少女を見つけ、伸ばされたその手のひらに指を絡めた。
いつもしているように、五指で触れないように。壊れないように、壊さないように。
それがいけなかったのかもしれない。雨に濡れ、真下に吸い込まれる身体を引き上げるには不十分だったのかもしれない。彼女の手はするりと死柄木の手から滑り落ちると、瞬きの間に地面に吸い込まれて消えてしまった。
喪失。その瞬間、死柄木の心に激しい憎悪が生まれた。いや、もともとあった憎悪を、しばらく忘れていた憎悪を、今はっきりと明瞭に思い出す。
黒霧のワープの向こう側、新入りの荼毘と戦う男をあっさり捕えると、死柄木はソレを地面に叩きつけ、足で腕を踏んだ。骨でも折れているのだろうそこを狙ったのはわざとである。ぐぅ、と苦しげなうめき声、負けを悟ったのか、命乞いをするような表情。
「アイツは俺のもんだ……アイツを返せ」
そうだ、と死柄木は思う。あの少女は、あの花開くように笑う少女は、身体の隅の隅までも、細胞一つ一つ余すことなく、自分のものであるべきだ。もうとっくに失ったもの、陽だまりのような温かさを、身体じゅうを掻きむしりたくなるような優しさを、なんでもないふうに死柄木にすら差し出すあの人間は、こんなふうに傷つけられるべきではない。
個性を解除し、地面から眠る少女を浮かび上がらせるのを確認すると、死柄木は男の顔に手のひらをピタリとつけた。その瞬間、安堵から恐怖に歪んだ男の顔がボロリと＿＿
＿＿箱の中に閉じ込めて、何不自由ない生活をさせようか。彼女を形作る血肉ひとつひとつが、すべて自分の与えるものだけで構成するように。彼女の目に触れるものすべてが自分の差し出すものだけになるように。彼女の名を呼ぶのが自分ただ一人になるように。
Aをそっと抱き上げると、黒霧に指示を出して、荼毘を連れてアジトに戻る。雨に打たれ、青ざめた少女の頬。死柄木は痕をつけるように、彼女のそこに口を寄せた。
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ちゃこ(プロフ) - うぅ…好きです！！今なら私も花咲かせられそうです😭！前から気になっていた弔くん…無事推しになりましたありがとうございます！！ (2022年5月25日 5時) (
レス) @page50 id: e4e61dc8c5 (このIDを非表示/違反報告)
mikitty(プロフ) - 完結おめでとうございます！最高でした！ (2020年8月18日 1時) (レス) id: 05ebd46207 (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - はなかっぱ… (2020年2月4日 3時) (レス) id: 86c077b51d (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - すごく良かったです！！！死柄木君の小説は初めてだったんですけど、もう最高すぎました！！ (2019年11月5日 22時) (レス) id: a8dea294c9 (このIDを非表示/違反報告)
オーバー - 完結おめでとうございます！最後までキュンキュンさせていただきました！！ 占ツクを徘徊していた時に、とんでもなく良いこの作品を見つけてからは、ずっと応援していました(´ω`*) もちろんこれからも応援しています、頑張ってください！！ (2019年8月25日 22時) (レス) id: 50e4bb27d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きりんの木
| 作成日時：2019年6月13日 19時
