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「もしや私……食べられるのですか?」
わな、と私が震えたら、無惨さまはわずかに笑った。その笑みが、私と平行線上の世界には存在しないようなもので、まるで世界を知りすぎたかみさまみたいで、私は無性に、悲しくなったのだ。
深まった夜。
きゃあ、と色めき立つ遊郭。
何事だろう。私が首を傾げながらきゃあきゃあと声を上げる子に話しかけると、火照った頬で熱心に教えてくれた。
いわく「お金持ちの色男が来ている」らしい。なんだ、と私は肩で息を吐くと、そのお金持ちとやらを見ようかなぁなんて思って人の群れに近寄った。これでも元孤児、お金持ち探知機は鈍っていないはず。襖の隙間から覗こうとする人だかりに紛れ、そっと中を覗こうとした。ら、肩を叩かれた。
「蕨姫が今すぐ来いって!」
あ、とそこで気がつく。たぶんあの色男とやらも、蕨姫がお相手するのだろう。ならば準備をしなくてはならない。
私は慌てて蕨姫のもとへ向かった。
「……お前、まだ客をとってないっつうことは身は清いままってことだよなぁ?」
面倒な輩に絡まれてしまった。
男は真っ赤な顔で言いながら私をじろじろと覗き込んでくる。呼気からは酒の匂いがする。酔っ払っているのは一目瞭然だった。
「可愛い面してるなぁって思ってたんだよなぁ、お前のこと」
男は最近貿易商売やら何やらで一旗挙げた成金男で、この遊郭に入り浸っていた。まあ毎回蕨姫を指名出来る程ではないけれど、手が届かない程でもない程度だ。だからまあ、私に近寄れば蕨姫にも近寄れる、みたいな考えでも持ったのだろう。そのくらい蕨姫は美しく、高嶺の花であるのだ。
私はため息を吐いて、強引に私の腕を掴み続ける男を見上げた。
「すみませんが、私は仕事があるので……」
遊郭に身を置かせてもらっている立場かつ相手はお客であるので邪険にも出来ない。
「その仕事もしなくて良くなるだろうが。なんせ、俺が買ってやるって言ってるんだから」
私は盛大に眉を寄せた。蕨姫に近寄りたいにしてもやり過ぎであろう。男は誇らしげに私をいくらで買う、と具体的な値段まで言い出した。
その値段はけっして安価では無いし、孤児の頃の私なら飛びついてしまう大金ではあるけれど、けれど今の私は何の魅力も感じられなくてーー
「ーー私はその五倍はくだらない」
低い声が響いた。次の瞬間、私を掴む男の腕がごとりと落ちた。
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久遠(プロフ) - 本当に凄く素敵なお話でした。転生した先で2人が幸せであることを願います。転生した先でのお話も読みたいなぁという気持ちもあります。きりんの木さんの小説をまた読みたいのでpixivのアカウントをいつか絶対見つけたいです。教えてくださるのが1番助かりますがね笑 (6月28日 21時) (レス) id: d025dfcb18 (このIDを非表示/違反報告)
みずき(プロフ) - 素敵な話でした。どの目線から言うのかという感じですが、文章の書き方も素晴らしいかったです。無惨様への罰という形で終わりましたが、無惨様へ幸せを送る形で、新しい二人の話を読みたかったなと言う気持ちではあります。 (5月29日 23時) (レス) @page43 id: d9f5409103 (このIDを非表示/違反報告)
chiaki0708(プロフ) - ドキドキが止まらない素晴らしい作品でした!!!無惨様の好感度爆上がりです! (2021年12月14日 8時) (レス) @page43 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
尊都(プロフ) - 約1年ぶりにお気に入りを探りこの小説を読み返しました。完結お疲れ様です。寂しいですが、2人らしい最期でした。悪役である無惨さまへの贈り物、素敵だと思います。素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年9月27日 3時) (レス) @page37 id: 6a52012404 (このIDを非表示/違反報告)
なあ - 素晴らしい作品でした。作品の中の無惨が生きているような感覚でした (2021年9月25日 2時) (レス) @page37 id: a69664b85d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きりんの木 | 作成日時:2020年1月25日 12時