依存病人【d!】 (ページ8)

今日:21 hit、昨日:35 hit、合計:60,498 hit

・ページ8

そのまま数十秒が経過した頃だろうか、遠くの方からテンポの速い振動が聞こえてくる。

何だか騒がしい。

...ん？なんか、段々と音が大きくなっていないか...?

突如、音が止む。そしてすぐさま扉が勢いよく開けられ、壁が悲鳴を上げた。
驚いて扉を見つめて固まるA。

そこには、焦りと驚愕の表情を浮かべている、白衣を身に着けた人々が肩を上下に動かし、息を切らして立っていた。

「Aさん!!意識が戻ったんですね...⁉」

「なにか変わった所は？」

「何処か痛みなどはありませんか?」

瞬く間に飛び交う質問に、寝起きの脳は着いていけず右から左へと流れていってしまう。何とか乾いた口から言葉を絞り出すと、細々と掠れた声が出た。

「あの...私は、あれからどうなったんでしょうか...」

一気に全員が口を閉ざし此方を見つめた。

何か、まずいことでも言ってしまったのだろうか。
背筋を冷や汗が伝う。
次にくる言葉に対して、手を強く握りしめて準備をした。

白衣を着た内の何処か貫禄のある人が歩み出て、一度咳ばらいをすると口を開いた。

「あの、Aさん。余りショックを受けないでくださいね。」
「あなたは、ランクSの依存病人に襲われました。そして、今日で５日目です。」

予想していたよりも短い期間に口から安堵の息が漏れる。

「しかし、あなたが乗っていた車両での生存者は、あなた一人です。」

思わず思考が停止した。そんな筈がない。

私は誰よりも今回の事故の発生地点の近くにいたはずだ。その自分がこれ程の怪我で済んだのだ。それなのに、誰も助からなかった...?

医師らしき人は話を続ける。

「事件中心付近に居たにも関わらず、あなたの怪我の具合は、車両の破損した一部による切り傷、打撲と言った軽症です。このような目にあって、再びそれを思い出させる様で申し訳ありませんが、これをご覧ください。無残な状態になっている内の、中央があなたの乗っていた車両です。」

医師のそばに居たナース服姿の女が、クリップボードをAに手渡した。そこいはいくつかの新聞記事や写真と言ったものが留められていた。

そのうち、先程指差された写真を見つけると、咄嗟に口に手を当てた。喉からはか細く音が鳴った。

大きく二つにねじ切られたまま、横転している車両が映っている。
脱線した車両のいくつかは切断され、地面へと突き刺さっている。そんな車両の中や周りに、小さく赤い何かがいくつも映っていたが、詳しく考えるのは憚られた。

きっと、しらないほうがいい。