買われました【d!】 (ページ5)

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「あー、コイツは鬱。俺は大先生って呼んどる。まぁどっちでもええよ。」

Aにそう言うと、鬱と言われる男の方へと向き、会話を始めた。

それを眺めていると、鬱が急に声を荒らげた。

「は？このエリートたる僕がわざわざ現地に足を運べだって？」

舐めきった態度の鬱は言う。

「そんなの、下の奴等にやらせとけば充ぶ」

「お前、そんなにゴキブリと戯れていた生活に戻りたいか？今すぐにでも、お前をｷﾒさせて、無理矢理行かせてもええんやぞ、お？」

口元を軽く痙攣させながら、低く、ドスの効いた声で言うコネシマ。

お怒りである。

そんな様子のコネシマに、一気に顔から血の気が失せる鬱。

「じょ、冗談ですやんコネシマｻﾝ...」

なんと情けないことか。

弱々しくコネシマにすがりつく鬱を見て、少し引いているAは、死んだ目でふと思った。

何でここにいるんだろう。

目の前で行われるやり取りを聞きつつ、天井に取り付けられている豪華なシャンデリアの装飾品の数を数えた。

そんなぼんやりとしていたAを置いて、いつの間にか話は着いたらしく、漸く脳が落ち着いてきた頃には、剣や装備やらを渡されて馬車へと詰め込まれていた。

ぽかんとしていると、Aの一部屋前の席に、苛立たしげにわざと大きな音を立てて乗り込む鬱。

カチカチとライターを何度もつける途中、舌打ちも聞える。

そんな様子の鬱を見てAは、これから始まるであろう鬼蓄人生に、ｷﾘｷﾘと痛む腹に手を添えた。

一方、城では、湾曲した華美な加工が施された金の玉座に、悠々と座るコネシマ。

玉座のすぐ隣にあるサイドテーブルの上には、先程の紙が置かれている。
一粒一粒が光を屈折し、金剛石のように輝く硝子を身に纏う集合灯から、それに視線を移して、愚痴を垂れながら調査へと向かう親友の姿を脳裏に浮かべた。

ふと、買ってきたヤツの名前を聞いていなかったことを思い出す。

まぁ、名前なんていつでも聞けるしな。

もし、これで帰ってこんかったとしても、それはそこまでのヤツだったちゅう事や。

つまりは結果的にはこれでよかったのだ、と独り頷くコネシマ。

これぞ手間要らずの入社試験!
王は玉座に座り独り笑うのみ。