駒 ページ4
なんと言うことだ...!!
Aは今の状況に思考回路を放棄した。
気がつくと、冷たく、右や左の判断すらできぬほど暗く、狭い、何か箱のようなもの中にいた。
起き上がろうと体をよじると、ふと、金属の刷れる音が耳に入る。
手足から、普通に暮らしていく上で、生涯体験することのないであろう、冷たい、金属特有の感覚がした。
壁に触れようと、手を伸ばすと、じゃらり、と、恐らく手首のものと繋がっているであろう鎖の音が空間に響く。
Aが壁だと思っていたものは、壁ではなかった。
細い鉄パイプのような物が縦に並び、その隙間からは、何か布のような肌触りがする。
檻だ。
ひゅ、とか細い音が喉元から発せられる。
神から新しい人生を貰ったのだと冗談めかしくいっていたが、この状況を見るに、違うようだ。
その時、いよいよ、供給情報がAの脳内許容量を越えた。
脳を休めようとその場に座り込むと、どこでもない場所を、空をぼんやり眺めた。
それは、男が幕を開け、中を覗き込んだ時も同じであった。
あまりの眩しさゆえに、肩をびくつかせ驚きつつも、その方向を向いた。
しかし、やはりAは、ぼんやりと眺めているだけであった。
そんなAを他所に、あれやこれやと事が進み、気づけば一国一城の主の元、雇用採用の真っ只中であった。
「種族は?属性は?」
一方的に質問を投げ掛けるコネシマだが、Aは忙しなく視線を彼方此方に向けるだけで、その口は閉ざされている。
それもそのはずである。
そもそも、”人間”であるAに目の前にいる”人の姿をしたナニか”のいっている種族や何やらを、理解できるはずがない。
「...ま、この時代、何も知らんで売られる奴も少なくない。」
コネシマは頬杖をつくのを止め、玉座から降りるとAのほうへと近付いた。
「大丈夫やで、ウチは実力主義やから!」
にんまりと含みのある笑みを浮かべると、近くに待機していた兵士に対して、命令を下した。
「お前にはこれから、洞窟に住み着いたモンスターの退治にいってもらう。
ここには雑魚しか住んどらんから、初任務には丁度ええやろ。」
どこから出したのか、文字の上に赤ペンで大きく丸が書かれた紙を、びらびらと手に持って揺らす。
暫くすると、扉の開く音がする。
その方向へとAが視線を向けると、自身と似たような服装が目に入る。
「よお、大先生。」
「なんやシッマ、こんな忙しい時に呼び出しおって...」
少し着崩れたスーツを羽織った男が、そこに立っていた。
174人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:myself | 作成日時:2021年8月10日 22時