提案 ページ18
「これが先程の資料です」
「ありがとうございます。」
うーん、どうしよう。
Aは悩んでいた。圧倒的に、書類仕事をする人材が足りていないのだ。軍人が過ごす場所なのだから、文学がないのは仕方がない。
しかし、明らかに書類を担当する人材がいない。たまに来る口頭で内容を伝える軍人は、きっと文字が書けないのだろう。
これは早急に解決へと取り掛からねばならない問題である。
それからのAの行動は早かった。
王に直談判しに王室へと足を運んだ。何としてでも、人材の育成を承認してもらおうと意気込んでいた。
しかし、王に話すとすぐさま、いいよ、との声が返された。
「え、」
「良い考えやな、効率もよくなるし全然かまわんで。」
拍子抜けである。
呆気に取られたまま、よろよろと扉の外へ出た。
「まぁ、アイツらがそう簡単に指示に従うとも思えんけどな。」
気を取り直して、何やら音の聞こえる方へと進んで行った。扉の向こうからは、賑やかな笑い声や叫び声が響いて伝わってくる。
Aはぎこちなく黒く塗られた金属のハンドルを押した。
軋んだ木の音が笑い声の中に消えていく。
扉の近くにいた兵が一瞥するだけで、依然として雰囲気が変わることはない。Aはホッと胸を撫で下ろした。
テーブルの辺りに足を進めると、Aはなんだか視線を感じた。進んだ方向に座っていた数人の兵が、喋りつつ、不思議そうにAを見ていた。
胸あたりに光るそれに目を向けると、ギョッとした表情を浮かべる。隣で会話をしていた兵を震える手でつつくと、なんだと言いたげにそちらを向く。震える手で指さした方向に顔を向けると、同じように硬直する。
そうやって、ひとり、また1人と口を閉ざしていく。
視線がAに集まる頃には、木が軋む音が聞こえるだけだった。
願わずとも、話を聞いてもらえる状態になったのはありがたいが、これはこれで緊張する。
「初めまして。最近幹部に任命されました、Aと申します。」
「さっそくですが、新しい任務として、最低限の文字の取得を軍事に組み込ませていただきます。」
少しの間沈黙が流れると、一気にざわつき出した。
「そんな事やる必要ないですよ。」
「どうせ使うことなんて殆どないよな」
「俺らは兵士だろ？文字なんて必要あんのか？」
めんどくさい、必要ない。と兵士からは不満の声が上がる。
今まで文字を書く事を必要とせず生きてきた兵士にとって、Aの提案は理解できないものだった。
しかし、こちらにも奥の手があるのだ。
「もし、参加して頂けるのなら＿＿＿」
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作者名：myself | 作成日時：2021年8月10日 22時
