友人 ページ15
「じゃあ、よろしく、トントン君。」
にこ、と笑みを浮かべてトントンという名の兵隊の手を握るA。
トントンは最初呆気に取られていたが、徐々に顔を赤らめ、俯くとわなわなと震え出した。
「あっ…!?あ、アンタ何やっとん!?」
ｽﾞｻﾞｻﾞｯと壁際に後退りする。肩を上下に動かして握られた手は心臓付近の布を固く鷲掴みにしている。大変慌てているようだが、先程自ら手を握ったことは忘れてしまったのだろうか。
女慣れ、してないんだろうなぁ。
「ふふ、そう硬くならないで。私たちはもう"そういう仲"じゃないですか。」
「あっ、アンタなぁ…!!」
恨みがましく此方を睨んでくる。
弄りがいがあるなぁ。
別人や…と隣でブツブツと呟くトントンを尻目にAは小さく笑みを零した。
こっちでも何とかやっていけそうだな。
Aが一息つくと同時に奥の方から人影が現れた。
「あ！Aちゃん！！」
満面の笑みで手を大きく振りながらこちらへと走ってくる。
たどり着くと息を整えつつ、元気よく顔を上げた。
そして、固まった。
「…あ゛!?…Aちゃん…？そいつ…誰や？？」
「友人です。」
「お疲れ様です。鬱幹部。」
びし、と敬礼するトントン。
そんなトントンに対し敵意をあらわにする鬱。
「あー…お疲れさん。あ、Aちゃん、これからデート行かない？丁度いい店見つけたんよ！」
チラリとトントンを見るとすぐ様Aに向き直る鬱。
若干の疑問と不快さで、Aを見やるトントン。Aは慌てて、大丈夫だ。との念を込めた視線を送る。
不満そうな表情を浮かべつつも、敬礼をして一度こちらを見て、心配そうな顔をすると小走りで去っていった。
「Aちゃん！」
さて、コレをどうしたものか。
「...鬱さん。」
「はーい！なあに???」
「昨日お渡しした書類、終わらせましたか？」
「エ"」
咄嗟に目をそらすと、額には汗をにじませる鬱。
痛いところを突かれた。
Aちゃんとデートはしたい。でも、書類をやるのは嫌だ。何で働かないかんの？？
鬱は、人生最大の難問に出会ったかのように頭を抱えた。
最初からため込まなければこう悩むことはなかったのだが。彼の頭にはそもそも仕事をすると言った基本動作が組み込まれていないので無理な話だ。
いかに理由をつけて仕事を逃れるか。それしか頭にないのである。
よし、媚売ろう。
体をくねらせながら猫撫で声を出し振り返る鬱。
「Aちゃ〜.....あれ？」
廊下には、誰もいなかった。
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作者名：myself | 作成日時：2021年8月10日 22時
