番外編「キノシタ」 ページ10
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バスが学校に到着してすぐ、練習の準備を始める。
練習試合では潔子さんにほぼ任せっきりだったから、今からは私もちゃんと頑張らなくちゃ。
そう思って一番重い荷物を一気に二つ持つと、私の腕力では堪えるのが難しく、思わずうっと声を出してしまう。恥ずかしい。
「木下さん、それ持ちます」
『あ、ありがとう…』
試合直後で疲れている選手に持たせるのは気が引けたが、多分私一人では持てないと思うので素直にお言葉に甘えることにする。
そこで、一つ思い出して、あ、と声を発する。
『そうだ、影山。中学の時の感じで慣れてるかもしんないんだけど、私のことはAって呼んでもらってもいいかな?』
「?…うす」
『ほら、同じ二年に木下いるでしょ?ややこしいからさ』
分かりました、きの…Aさん。
照れたように言い直した影山が可愛くて、背伸びして頭をわしゃわしゃした。
すると私の後ろで荷物の整理をしていた山口君が、あれ、と言うのでそちらを振り向く。
「先輩たち、木下さんのことは名字で木下さんですよね。
それこそややこしいし、久志さんのがいいんじゃないんですか?」
『うーん…多分、久志の方は、みんな“木下”で定着してるからね』
「?」
『私、途中入部だからさ』
私はなんとなく他人に向かって自分の名字を呼ぶのに違和感があるから、了承を得て久志と呼ばせてもらっているけれど。
「なんで途中から?なんですか?」
『高1の春、交通事故で入院してたの』
ぴょこぴょこと動く日向君にそう聞かれ、笑顔で返すと彼の顔は真っ青になった。
こ、こ、交通事故…!?なんて慌てているところが可愛らしい。
交通事故の原因は、轢かれそうになっていた猫を助けて、…なんていう優しい世界ではなく。
居眠り運転のトラックに、信号待ちしていたらぶつけられたのだ。
春休み終盤のころだったから、高校生活が始まる3週間くらいまで、私は学校に行けなかった。
「ヒィィ…痛そう…」
『うーん…多分みんながレシーブしてるとこ見ると、そっちのが痛いと思う。強烈なやつは特にね』
「ぜ、絶対にそんなことはないと思います…」
『そう?でも強打とか取るの痛そうじゃん。
―――うちのエースのスパイクも、威力すごくて、多分めっちゃ痛いからね。
今のうちに覚悟しといた方がいいよ〜』
そう言うと、山口君と影山は息をのみ、日向君はエース、とぼそり、呟いた。
……ほら。
みんな、待ってますよ。エース。
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ふぃる(プロフ) - あかねさん» コメントありがとうございます!なんて嬉しいお言葉…!!のんびり更新ですが、これからもどうかよろしくお願いいたします(^^) (2020年3月12日 13時) (レス) id: 57a4697fd9 (このIDを非表示/違反報告)
あかね - めっちゃ好きです。このお話読んでふぃるさんのファンになりました笑これからも応援してます!! (2020年3月2日 8時) (レス) id: 012863f737 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ふぃる | 作成日時:2020年2月7日 11時