#3 ページ1
「A、俺の事覚えてる?」
「え、久しぶり!」
時計台の下にいると
大学時代のとても懐かしい顔に声を掛けられた
「久しぶりだね。元気にしてた?」
「うん。こっちに戻ってきてたの?」
「昨日、同窓会あったじゃん。でも、A来てなかったよね。」
「ふふ、昨日は彼氏の誕生日だったから。」
ほっぺにクリームをつけて喜ぶ彼の姿を思い出す
快くんのこと彼氏って改めて呼ぶと愛しくなったけど、
快くんが来るまで、久しぶりに会った同級生と他愛もない話をしていた。
「彼氏?そいつ、年収は?顔はカッコイイ?」
「え、?」
「ずっと見てた。アパートにもいないし。でも久しぶりにスーパーいたよね。今Aはどこ住んでるの?」
非常識さを感じながら、突然肩を掴まれ力が入る。
あれ、こんな強引で、恐怖心を誘う人だったっけ。
「ねえ、A教えてよ。」
「ちょっと、力強いよ。痛いから、離して」
「A!」
ワイシャツの袖を捲りあげて走ってくる快くんの姿が
私の名前を呼んでるのが聞こえて、私の体を包み込んだ。
「…お待たせっ、デート行こっか。」
「快くん…」
もしかして彼は全て知っていたのだろうか。
真実を伝えたら傷つけてしまうから、
忘れ物というよくわからない嘘をついて。
「誰、この人。」
「どぉーも。Aちゃんの彼氏です。」
「やっとAの近くに岡田がいなくなったと思ったのに。」
間髪入れず、胸ぐらをつかむ。
こんなに怖い顔をしている快くんを見たことがない。
普段笑顔の人を怒らせたら一番ヤバイって、このこと。
「…あんま調子乗んなよ。この子を傷つけたら、お前の喉笛噛みちぎる俺がいることを忘れんな。」
嘘みたいに笑顔になって、パッと首襟を離して解放する。
流石に脅えたのか、人混みに紛れて彼は消えた。
「懐かしいねぇ〜、あそこのケーキ屋まだある!」
「せっかく来たから買って帰ろっか」
何事も無かったことのように、手を繋いで
普通を装ってくれる優しさに耐えきれず涙が溢れてくる。
「…ごめんね。俺、怖かった?」
ふるふると首を振る。
「怖かった…」
「え、どっち?!」
「けど快くんが来てくれて、安心したあ…」
私の隣に居たのに、いつの間にか強く、絶対に離さないと言うばかりに抱きしめられる。走ってきた快くんの体温は熱くて、でもその温度が心底安心させてくれた。
「Aちゃん。俺は誰から何も聞いてないし、何も知らないよ。」
「うん…っ」
「だから、だいじょーぶ。大丈夫なんだよ。」
嘘つき。きっと、全部知ってるくせに。
このまま優しい嘘に甘えて、貴方に心配されていてもいいですか?
120人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:珊瑚 | 作成日時:2023年1月26日 21時