月夜 百四十夜目 ページ19
ゴボリ、と液体状のナニカが泡立つような音がしたかと思えば、
「……！？また、お前……！」
『これ以上わたしは君を傷つけたくない』
『これ以上わたしは君を侵食したくない』
『これ以上、わたしは君の中で生きたくないの！』
悲痛な叫びが、エクリプスの口から出た途端に真っ赤な『文字』となって部屋を埋め尽くしていく
『どうして。どうしてわたしは生まれたの』
『君達は、わたしの性で苦しんでいる！来亜ちゃんだって恵里香ちゃんだって玲央ちゃんだって留世ちゃんだって亜理子ちゃんだって君だって』
『みーんなわたしの性で苦しんでいる。死にたくなかったあの子達、赤の女王になりたくなかったあの子、“あの惨劇”を覚えていたくなかった君』
『そう、今の状況に皆を追い込んだのは、このわたしだよ！』
『だから、君達はわたしを恨む権利がある。恨んでてもらわないと困るの！』
エクリプスは、ゆっくりと此方に近づいてくる。その手には、何処からか取り出した黒いナイフが握られていて、未月には何に使うのかが用意に想像できた
「そんなに、自分が憎い？」
『憎い。嫌い。大嫌い。だからお願い、どうかわたしを！』
未月は、動けない。エクリプスの真っ赤な瞳がまるで未月を、蝶を展翅板に張り付けるピンのように縫い止めているからだ
「……ッ！」
『ほら、このナイフでわたしの胸を貫けば良いの。刺せば良いの。この胸が、そのナイフの鞘なの！』
黒いナイフを、未月の手に無理矢理握らせる。ナイフの先を自身の左胸に軽く押し付けただけで、ナイフは服を少し刺した。切れ味はかなりなもののようだ
「……落ち着いて。例え私のためなのだとしても、私は貴女に聞きたいことがいっぱいあるの。だから、私は貴女を殺さない！」
『“【あるキャラクター】しか知らない事を知れば、その人はその分、【あるキャラクター】に侵食される”。ありすぎて腐った、よくある設定だよね。だから、わたしは貴女に何も教えない。このままぐっさり刺してくれれば、それでいいのに！』
「嫌……嫌、そんな、貴女の思い通りになんかさせない！」
だが、未月の腕は未月の意思に反してエクリプスへと向かう。どうして、と短く呟くと、エクリプスが教えてくれた
『だから言ったじゃん。わたしの事を知れば知るほど、私はわたしになっていく。そんな事には絶対にしちゃいけないの。……ね？だから、わたしを……！』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 10人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：瑠伊亞 | 作成日時：2019年5月18日 21時
