【文スト】許嫁からはじまるレンアイ【太宰治】

五十九、判っていたから ページ15

たしか、わたしの記憶では、【パンドラの匣】は完全記憶能力の異能だったはず。


それを教えてくれたのは崎見さんで……あの時わたしは、わたしの特技とこの異能が似てるなって思ったんだっけ。



「……【パンドラの匣】……」



呟いて、わたしは手を顎に当てた。


……そうだ、この人工異能とわたしの特技はよく似ている。


【パンドラの匣】は失敗作で、わたしは完全とは云えずとも、“記憶力がとてもいい人間”。


……これは偶然だろうか？



「お母さんはポートマフィアのフロント企業の顧問弁護士で……お父さんは【匣】の関係者だった……」



今回殺されているのは【匣】の研究者達だが、彼らは今更どうして殺されなければならなかったのか。


あったことと云えば、やはりわたしが横浜に戻ってきたことか。


でも、わたしの帰郷がどうして連続殺人事件に繋がる？



「【匣】に関して秘密を持ってるのは治だけど……。彼奴が連続殺人とか……似合わないし。やるならもっと効率的にやるだろうし」



彼奴は元マフィアの超極悪人だ。こんな派手に噂になる事件を起こすとは考えにくい。


……いや、その前に、治は織田さんとの「佳い人間になれ」という約束を忘れることはないだろう。その線はないな。


だとしたら。


……考え、たくはないけれど。



消去法で、こうなってしまうんじゃないか？



「わたしは……人工異能を植え付けられた、【パンドラの匣】の異能者？」



人工異能の失敗作。【パンドラの匣】。


……わたしが記憶力がよくなったのはいつからだったか。あれは、そう、恐らく七年か、八年前からだ。


わたしは昔から頭は悪くなかったとは思うが、最年少で司法予備試験に受かるほどの記憶力を保持していた訳ではなかったはずだ。



＿＿＿＿＿わたしは、多分、【匣】の実験体だったのだ。



十六歳で司法予備試験に受かった俊才。


当時そう謳われたわたしのことは、【匣】と手を結んでいた国にも知れただろう。


心中事件後一年経たずにポートマフィアに保護されたわたしに、国は手を出すことが出来なかったが……わたしは自ら国家公務員になった。



……今回、わたしが異能連続殺人の担当検事になったのは、国がわたしの力を測るためだったわけだ。



「……治が二年前、わたしの上京を止めようとしたのも……七年前、ポートマフィアにわたしを保護させたのも、


国がわたしの能力を手に入れようとしてたことを、判ってたからだった……？」

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