それは、まるで潮風のように。 ページ18
「ん………」
頬に刺さる風が冷たくて、潮風の匂いをふと感じられて目を開く。
目の前では波が行ったり来たりを繰り返していて……って、
「え、海……?」
誰もいない砂浜に光に反射されてキラキラと輝く海。
………一体ここはどこなのだろうか。
「……A?」
「っ!?」
自分の名前を呼ばれ、ギョッとして声のしたほうを見る。
そこにはある1人の知らない男性がいて。
ううん、違う。もしかして彼は……
「セ、ンラ?」
半信半疑で呼びかけると驚いたように目を見開いた彼。
………やっぱり。彼は高校生の頃同じクラスだったセンラだ。
高校生の頃とは顔つきも少し変わっていて大人びた風貌と久々に会ったせいでパッとは思い出せなかった。
でも、変わらない。
優しく微笑むその表情も、私を見つめる瞳も、全部あの時の彼のままだ。
「久しぶりやね」
「そっちこそ。私が転校した時以来じゃない?」
「…そうかもなぁ…相変わらず背は低いまんまみたいやけど」
「………」
ジトーッと睨めば ごめんごめん とおどけたように笑うセンラ。
こいつ高校生の時も背は高かったのにまた高くなったんじゃないか。
それに比べて私は高校生の頃は背の順は一番前で、今もあれから背は伸びていない。……身長分けろこのノッポめ。
「……Aはなんでここに来たん?」
「それが分からないんだよね。気づいたらここにいた」
「………そっかぁ」
そう言ったセンラの瞳に息がつまる。
しっかりと私を見つめているのに潤んで見えて。
戸惑っている私にセンラはなにも気づかず普通に話しかける。
「あれ、Aってどこに引越したんやっけ?」
「東京」
「そっかぁ」
高校2年生の夏。親の転勤で東京に引っ越す事になった私は友人達との別れを悲しみながら上京した。
___1つ、胸に大きな後悔をかかえて。
あの頃、同じクラスになった私とセンラは仲が良かったほうだったと思う。
でも、私はそれ以上の関係になることを望んでしまったのだ。
けれど彼はそんなこと望んでいないだろうし。なにより言ってしまったせいでこの関係が壊れてしまうのがひどく怖くなってしまい、結局気持ちを伝えられないまま転校してしまったのだ。
お互いに砂の上に座り、横にいるセンラをチラリと見る。
久々に見た彼の姿に、ドクッと心臓が大きく1回鳴った。
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作者名:高瀬その | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/8ef4f72c271/
作成日時:2018年6月26日 21時