その愛、雨模様。

虚構愛慕の模様です。(segs)☆ ページ46

『...は？』
混乱する私を置いて、俺を騙してたの？と明那は続ける。
｢俺ら先週も映画デート行ったよな？初めてAからキスしてくれて俺凄い嬉しかったんだけど、それも全部演技だったの？..それにその一週間前は水族館にも行ったし、その前は＿｣
パニックに陥るのを避ける為、私は一度彼の声を情報から遮断する。なんで彼はこんな破綻した事を言うのか、という疑問の前に、底無しの恐怖が私を包み込んだ。
なんで全部(・・・・・)、当たってるんだ(・・・・・・・)。
彼の言った場所は、その日時に実際に私が行った所だった。でも、その相手はいずれも明那ではない別の人。...彼は、なんで全部知ってるのだろう。
思考を巡らせていた時、ある一つの言葉を思い出す。ついさっき明那が言っていた、私の家の前で待ってた、という言葉。

私、彼に自分の家を教えた記憶なんて無い！

まさか、私は彼に、
本能が危険だとサイレンを鳴らしている。逃げなくては、と一歩後退った時、強い力で肩を掴まれた。

｢...ねぇ、まさか俺から逃げる気？巫山戯んなよ、俺がAの事どんだけ好きだったと思ってるの？！｣

ギリギリギリと更に力が込められる。離して、と彼の腕を掴んだがビクともしなくて、心臓が恐怖で早鐘を打った。
『いたい！離して明那！私の話をちゃんと聞いてよ！』
急に黙り込んだ明那の顔を見ると、彼は無感情に淀んだ双眸を此方に向けていた。背筋に、冷たい物が走る。
『あき、な？』
｢...はぁ、もういいや｣
溜息を吐いたかと思うと、明那は私の手首を掴んでつかつかと歩き始めた。幾度と無く抵抗の言葉を漏らすも、全く耳に入っていないのか明那は歩みを止めてくれなかった。
足がもつれてしまいそうな程速く彼は歩く。知らない内に時間が経っていたのか、本来ならば私達が講義を受けている筈の教室から教授の声が聞こえた。
彼はその教室の前を興味無さげに横切り、外に出てあろう事か大学の門を潜る。嘘でしょ、私の荷物、教室の中にあるのに。
最寄りの駅とは反対方向に向かい、彼は背の高いマンションのエントランスに入る。
猛烈に嫌な予感がして何度も手を離そうとしたのに、私の腕に青痣を創るそれは矢張り離れてくれなかった。
有無を言わさぬ視線と力でエレベーターに押し込まれ、気味の悪い浮遊感に襲われた後今の私達には不釣り合いな軽快なベルの音が鳴る。
開いた扉も、射し込んできた光も、今の私にとっては恐怖の対象であるだけだった。

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