横っ腹の悲鳴、五秒前【横山 真那斗】 ページ29
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十分間の持久走開始を間近に控えた特設グラウンドには、各々の反応を見せる未来ある生徒達が群がっていた。
寒さに弱い自分にとっては通気性の良い体操服はどうも着心地が悪くて、以前大夢くんに鼠のようだと比喩された小さな嚔を何度も溢す。
早くジャージを配布してくれないか、このままではコンディションに支障が出てしまう。
走っていたら幾らか体も暖まるだろう、もう少しの辛抱。
そう自分に言い聞かせながら、右隣で揺れる艶やかな銀髪に視線を滑らせる。
銀髪の持ち主である大夢くんは、先程から苛立ちを隠せぬ様子だった。
知り合いが不機嫌そうなのは自分としてもあまり気分が宜しくない、何とかして彼には笑っていてもらいたいものだ。
「おい真那斗」
「っえ、あ……どうしたの、大夢くん」
ハート先生の声が高々と響き、クラス決定という戦いの火蓋が切って落とされる直前、大夢君がずい、と徐に顔を近づける。
「お前、あの集団には負けんなよ」
「あの、集団……?」
大夢くんの指がさすその先には、恐らく苛立ちの原因であろう人達……まだ名は知らないけれど、確か入学式の騒動で真っ先に行動を起こしていた人達だった筈だ。
僕がやったことと言えば、防護壁を作ったりといった援護のみ。
生物にも効果が及べば、スライムだって固めて戦闘不能にさせられたのに。
自分の実力不足を痛感しながら、確かな戦果を挙げた彼らには少なからず羨望していた。
そんな人達に負けるなと釘を刺す大夢くん、一体何故僕にそんなことを言うのだろうか。
沈黙の後に頷けば、満足したのかすぐにスタートの用意を始める大夢くん。
それに習って、自分もしゃがんで靴紐を強く結び直した。
「それじゃあ……スタート!」
声が響くと共に、横列を成した一年生が地面を蹴る。
「……はっや」
まず真っ先に飛び出したのは、向かい風に長い黒髪をたなびかせる女子だった。
あの子も騒動の中率先して動いていた人だ、やはりできる人はなんでもできるものなのか。
それに続いて、赤いメッシュが目を惹くボブカットの白髪少女や、お団子を作った金髪の女子が、男女の体格差なんてもろともしないと言わんばかりに先頭をゆく。
勿論男子も負けじと食らいつき、先頭集団がそこである程度固まった。
僕が居るのは、先程負けるなと言われた対象である彼らの後ろ。
運動神経の良い筈の大夢くんもまだ隣で走っていたのが、悪いけれど……なんだか不穏だった。
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なんと素晴らしく憎い彼らを【利根 大夢】→←焦燥【美谷 凪】
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ヒメアミ(プロフ) - 更新しました!あと続編移行したので皆さんそちらにお願いします!…あと続き半濁音さんに繋げていただけると嬉しいです! (2020年4月3日 15時) (レス) id: fb659ead07 (このIDを非表示/違反報告)
ヒメアミ(プロフ) - 更新します! (2020年4月3日 14時) (レス) id: fb659ead07 (このIDを非表示/違反報告)
そら*フィア(プロフ) - 終わりました。次の方お願いします。 (2020年4月3日 14時) (レス) id: c283b58b59 (このIDを非表示/違反報告)
そら*フィア(プロフ) - 更新します。 (2020年4月3日 13時) (レス) id: c283b58b59 (このIDを非表示/違反報告)
ヒメアミ(プロフ) - すみませんやっぱ止めます…m(_ _)m (2020年4月3日 11時) (レス) id: fb659ead07 (このIDを非表示/違反報告)
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