好きになんてならない。【センラ】 (ページ9)

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＊ページ9

「誰も、好きにならない？」

センラくんが繰り返した台詞に、小さく「うん」と
頷く。

……次に聞かれることなんて「どういうことか」のひとつしかない。
それを先に読んで、私は追うように口を開いた。

「詳しくは話したくない、けど。もう私は、誰も想わないって決めたから……私とセンラくんが付き合っても、センラくんが辛いだけ、なの」

一息に、一気に言い切る。
我ながら凄い自分勝手だな、なんて。

しん、と広がった沈黙は、酷く居心地が悪い。
それを誤魔化すかのように一度深く椅子に座り直した。

「……なら」

それと同時に、センラくんの声が耳朶を打った。
がたん、と音を立てる私の椅子。

落ち着いたはずの心臓が、再びその存在を痛い程に主張し始める。

「なら、簡単な話やな？」

そう、にこりと微笑まれて、私は頬が引き攣るのを感じた。

マイナスではない。
かといって、プラスでもない。

彼に対するこの感情を、私は未だに形容できずにいる。
こんなにも自分がわからないのは初めてだ。

「簡単、って……」

「だって、そうやろ？」

一段と大きく、衣擦れの音が響く。
センラくんが頬杖を崩し、机にゆったりと突っ伏したのだ。

試すかのような見上げる目付きで、私の顔を楽しそうに覗き込んでいる。

「小鳥遊さんが、俺のことを好きになれば俺の勝ち」

「……は、ぇ？」

形のいい唇から紡がれた言葉に、一瞬思考回路がショートした。

けれど直ぐにそれは繋がって。
目の前の状況が、これでもかというほど脳に伝わってくる。

センラくんの微笑みが、より一層深まった。
細められた目に射抜かれて、私はまた動けなくなってしまう。

「小鳥遊さんのその『決意』をぐちゃぐちゃに壊して、あほらしくなるくらいに俺の事好きにさせればいい話やんな？」

普段の生活では聞き慣れないその言葉。
背筋が凍る感覚も、なんだかもう慣れてしまった。

「……だから、俺の事好きになって？」

「そんな、無茶な……」

どうしてか、結構凄いことを言われているはずなのに、目の前の人物に対して畏怖のような感情は抱かないのだ。

……とは言っても、好意を抱いているわけでもないけれど。

「……多分、無謀ですよ」

私の返答に、「そんなんやってみぃひんと分からんやろー」とけらけらと笑うセンラくん。

彼の口から語られた、あまりにも無茶無謀な頼み事。

今日、この数時間で、やけに彼への印象が変化したものだ。