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漆/禁足の余波 ページ26

翌日、夜明けの空が白みだした頃。

私たちは、村が騒ぎにならないよう、人目につかない道を選んで村の領地外へと抜け出してきていた。

獣道、とまではいかないけれど、まさしく深窓の令嬢だった私には縁のなかった道なき道を通って。

正直、私の身体は少し重たかった。


「……外……」


こうして室内から出てみれば、改めて久しぶりの「外界」に触れているのだと実感できて。

不安に混じって、喜びの情も湧いてくる。

きょろきょろと辺りを見回す私を見て、みんなは特に何も言うでもなく優しく微笑んだ。

その微笑みがやけに大人びていて、何故か無性に背筋がむず痒くなってしまう。


「さ、追っ手が来る前に動かへんと、後々大変なことになりますよ」


そのくすぐったさを断ち切るように放たれたセンラくんの言葉に、他の三人の表情が引き締まる。


(……追っ手)


追っ手という言葉に、思うところがなかったと言えば嘘になる。

けれど。
今はどうしても、この奇跡に浸っていたい。

ーーまたみんなと巡り会えたという、夢のような奇跡に。


(ごめんなさい、お父様)


謝って済む問題でも、許されることでもないことくらい分かっていた。

それでも、今だけは。
儚いこの奇跡だけは。

脆い希望に縋る、今の私だけは。


(どうか、(ゆる)して)


心の中で呟いて、長く深く息を吐く。

それは今までの葛藤の溜息ではなく、決意のもの。

正しくはないかもしれない。
間違っているかどうかすらもわからない。

そんな、どこか歪んでしまった決意の息。

それでもこの決意は、きっと今の私を変えてくれる。
なんとなく、そんな気がしていた。


ふわりと服を揺らして身を翻したみんなを追いかけて、私も一歩を踏み出す。

からん、と音が響いて、私は足元に視線をやった。

私の足を包むのは、真っ白な足袋と赤い鼻緒の下駄。
いつの間にかみんなが用意してくれたものだ。

どうやら、道にあった小石を蹴ってしまったらしい。

着物の裾を少しだけ持ち上げればそこには、足枷によって残された痛々しい紫斑が見える。

別にそこまで痛みはない、けれど。


「A? 大丈夫か?」


着いてこなかった私を心配したのか、前を歩くうらたくんが声をかけてくれる。

慌てて着物の裾を下ろしたけれど、遅かった。

ぐ、と顰められた顔には悲痛なものがあって。


「気にしないで。痛くはないから、歩けるよ」


そう言って浮かべた私の笑みに、彼は何も言わなかった。

*→←ー紅玉との記憶ー



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ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます! (2020年7月11日 23時) (レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
あういえお - ぐへへ...((え、すげー...みんな言葉使いが...おしとやか...(?) (2019年7月25日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
もうふ - きゃぁぁぁぁ(( 好き。(笑) (2019年7月23日 22時) (レス) id: bc132d7752 (このIDを非表示/違反報告)
- 続きがきになる・・・更新頑張ってください! (2019年7月22日 20時) (レス) id: 7ea13ff707 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すんばらしい!更新頑張ってくださいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! (2019年7月22日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:星奈 ふゆ | 作成日時:2019年7月21日 16時

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