ー紅玉との記憶ー ページ25
うらたくんと友達になって、すぐのこと。
その日の内だったか、翌日のことだったか。
はたまたさらにその次の日のことだったか。
曖昧にしか覚えていないけれど、確かに私の記憶に残っていることがあった。
「A!」
どうしてかあの桜が気になって、桜の所に行こうとしていた時のこと。
躊躇いの欠片もない調子で私の名を呼ぶ声。
振り返れば、そこには男の子の姿があった。
揺れる柔らかな赤髪。
きらきらと輝いて天真爛漫を映す、髪と同じ色の瞳。
その紅の
「えっと……」
咄嗟に名前が出てこなかった私に、にこっと微笑みを浮かべるその少年。
「さかた!」とあげられた声に、私はぴくりと肩を揺らした。
「ぼくの名前!さかた!覚えてる?」
「……さかた、くん」
そう呼べば、するりと流れ込んでくる記憶。
彼は、うらたくんが紹介してくれた「ともだち」のひとりだった。
「うん、覚えてる」
あまりにも友好的なその雰囲気に、つい敬語が外れてしまった。
あんなにも厳しく躾られて、完全に染み付いていたというのに。
坂田くんのはちきれんばかりの笑顔は、それさえも剥がしてしまったのだ。
「よかった!……どこか行くん?」
にこにこと笑いながら私の近くにやってきた坂田くんに、私は曖昧な表情で「さくらのところ……」と小さく答える。
曖昧になってしまったのも無理はなかったと思いたい。
私も、どうして桜の所に行きたかったのか、ましてやどうやって行くのかさえもよく分からなかったのだから。
初めて行って、たまたま見つけた場所への道なんて覚えているわけがない。
「さくら……って、なつざくらのこと?」
坂田くんが首を傾げながら言った言葉に、私は頷いた。
その頷きに、坂田くんはーー
「じゃあ、いっしょにいこ!」
ーーぎゅっと、私の手を握ったのだ。
小さな手に、同じく小さな手を重ねて。
子供らしい力でしっかりと、離れないように。
「え……」
「あそこ、ちょっととおいから、まいごにならへんように! な?」
楽しそうに眼前に持ち上げ、見せられた手。
視界に入ったその手は、無意識に彼の手を握り返していた。
結局私は黙って頷き、歩き出した彼に引かれるように桜への道を歩いて行った。
普段は弟のような可愛らしさを纏う少年なのに。
ーーその後ろ姿には、確かに兄のような頼もしさを感じたのを、
私ははっきりと、覚えている。
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ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます! (2020年7月11日 23時) (レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
あういえお - ぐへへ...((え、すげー...みんな言葉使いが...おしとやか...(?) (2019年7月25日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
もうふ - きゃぁぁぁぁ(( 好き。(笑) (2019年7月23日 22時) (レス) id: bc132d7752 (このIDを非表示/違反報告)
狐 - 続きがきになる・・・更新頑張ってください! (2019年7月22日 20時) (レス) id: 7ea13ff707 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すんばらしい!更新頑張ってくださいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! (2019年7月22日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:星奈 ふゆ | 作成日時:2019年7月21日 16時