検索窓
今日:5 hit、昨日:3 hit、合計:114,937 hit

ページ17

「あ……」


あまりにも呆気なく外れたその鉄の塊に、私の口から唖然とした声が漏れる。

私の足元には、熟れた葡萄(ぶどう)の実のような鮮やかな紫色の髪。

ふう、と吐いた息が揺らした前髪の奥で、紫玉の瞳が微笑んでいた。

彼もまた、私の記憶で輝く存在。


「ほら、もう大丈夫やで」

「っ、志麻、くん」


柱と鎖で繋がった鉄の輪。
それは、私をここに縛り付けていたお父様の狂愛そのもの。

改めて視界に映すと、嫌な悪寒が背筋を走った。
こんなにも暑くて、熱くて、汗が止まらないというのに。

足枷を適当に放り投げた紫色の彼ーー志麻くんは、もう一度安堵の息を吐く。


「手持ちの鍵で開かへんかったらどうしようかと思てたわ……」


苦笑いを落としながら立ち上がる志麻くん。

坂田くん以外の立ち上がったみんなを追いかけて、私も自由になった足を動かして腰を浮かせる……けど。


「……っ、」

「あっ、ぶな……!」


ふらり、と身体が傾き、後ろに向かって倒れ込む。
それを、近くにいた坂田くんが支えてくれた。


「やっぱ立てへんやん」


心配そうな紅の瞳に、言い様のない申し訳なさが募る。

堪らず視線を逸らした私。
その身体は、数秒後にはーー宙に浮いていた。


「ちょっとだけ、我慢してな」


ーー横抱きにされている。

その事実は私に少なからず羞恥の感情を湧かせたけれど。

疲労に侵されたこの身では、抵抗する気は全くと言っていいほど起きなかった。
……むしろ、心地良い。


「じゃあ、お姫様も救出できたことだし……逃げるぞ」


開いた柵の傍。
もうひとり、青年がいた。

しっかりと、耳に刻まれるように響く低音。

この声はーーさっき、坂田くんたちに脱出を呼びかけていた声。

その声の主の姿に、私は見覚えがあった。


熱気の中でも存在感を示す翡翠(ひすい)の瞳。
熱風に靡く柔らかそうな栗色の髪は、その緑の瞳を見事に映えさせていた。

首筋につう、と雫を伝わせる彼を、私は知っている。


「……うらた、くん?」


囁きにも満たない小さな声を、彼はーーうらたくんは、確かに感じとった。

微妙そうな表情で、少し不満そうに私を見つめる。


「なんか、俺の時だけ反応おかしくね? なんで疑問形なんだよ」

「はいはい。ヤキモチはいいからさっさと逃げましょうね、うらたん」


そんなうらたくんとセンラくんのやり取りに、私は薄い笑みを浮かべる。


ーーその微笑みが、最後。

私の意識は、ぷつんと突然途切れた。

ー逃げ道ー→←*



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (214 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
598人がお気に入り
設定タグ:歌い手 , 浦島坂田船
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます! (2020年7月11日 23時) (レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
あういえお - ぐへへ...((え、すげー...みんな言葉使いが...おしとやか...(?) (2019年7月25日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
もうふ - きゃぁぁぁぁ(( 好き。(笑) (2019年7月23日 22時) (レス) id: bc132d7752 (このIDを非表示/違反報告)
- 続きがきになる・・・更新頑張ってください! (2019年7月22日 20時) (レス) id: 7ea13ff707 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すんばらしい!更新頑張ってくださいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! (2019年7月22日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:星奈 ふゆ | 作成日時:2019年7月21日 16時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。