Ep.53 ページ9
混乱の窮地に陥ったその場所では、決して人の注目を集めるものではなかった。
けれど―――その声を聞いた瞬間、私は再び走り出していた。
音源は、音の響きからするとビル横の小路地のあたり、いやそれだけじゃないかもしれない。さっき聞こえた悲鳴は一つだったけど、気配は―――呪力の気配は、一つじゃない!
小路に身を滑らせるようにして走り込む。
―――人の悲鳴を聞いて、呪いの被害を連想するのも、呪いの世界に身を置いたことで、じわりじわりと身についてしまった癖だった。
「うぁ……あ…………ぁ……!」
尻餅をついて後ずさる中年の男性。
その前に―――やっぱりいた、呪い。
「っ術式順転―――!」
バチンッ、と電気で火花が散る時のような音がして、呪霊が結界にはじかれた。私が術式で張った結界だ。
それで私の存在に気づいたんだろう。呪いは私を振り返ると、邪魔者排斥、あるいは獲物みっけ、という感じで襲いかかってきた。
おそらく準二級程度の呪霊。そんなに強くはない。
―――おそらく今回の騒ぎでの、人々の負の感情から生まれた呪い。
だから多分この呪いだけじゃない。私が感知できるだけで、弱いのも含め少なくともあと5体はいる。
後ろから、警察の避難誘導の声がきこえてきた。どうやら爆弾は本当だったらしい。もう少しで爆発すると言っている。
その渦中に、多分陣平くんはいる。警視総監を殴るなんて、ふざけたような理由で警察になったらしい彼は、今その命を以って、人の命を助けようとしている。
―――死ぬことを恐れたら、きっと誰も助けられないんだろうな。
呪いと爆弾で、この場所に地獄絵図が描かれる前に―――祓わないと。
襲ってきた呪いを前に、背負っていた武具を思い切り振り上げた。
一番最後に残った蠅頭を、なけなしの呪力と気力を纏った左手で弾き飛ばす。
そして私はその場にズルズルと座り込んだ。
「はっ…は……はぁ………づがれだ……」
この短時間に祓った呪霊の総数、約二十体。十超えた辺りから数えるのは諦めた。呪霊の等級も四級から一級まで様々だったし、別に普段の任務ならそこまでのものじゃない。
ただ今回は、爆弾騒ぎの場に他の術師を呼ぶわけにはいかなかった。だってそんなの、死にに来てくださいって言っているようなものだし。
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やなり(プロフ) - トマトまとさん» 温かいお言葉をありがとうございます!(T-T) 拙作を好きだと言っていただけて本当にうれしいですし、トマトまと様をときめかせることができたようで良かったです(*^ω^*) こちらこそ、最後まで読んでいただきありがとうございました! (2022年12月13日 14時) (レス) @page28 id: 38128c49d7 (このIDを非表示/違反報告)
トマトまと(プロフ) - 完結おめでとうございます!!!最終話を読んで、裏設定を読んで、更にこの作品が好きになりました。愛っていいなぁと思うお話で、キュンキュンしながら読ませていただきました。素敵な作品を読ませていただき、ありがとうございました! (2022年12月11日 13時) (レス) id: 1d9d2ab89b (このIDを非表示/違反報告)
やなり(プロフ) - 愛実さん» お待たせしました!!最終話を更新いたしました。楽しんでいただけたらうれしいですm(_ _)m (2022年12月11日 11時) (レス) id: 38128c49d7 (このIDを非表示/違反報告)
やなり(プロフ) - そらさん» ありがとうございます!大変遅らせながら、最終話を更新しました。楽しんでいただけたらうれしいです(*´꒳`*) (2022年12月11日 11時) (レス) id: 38128c49d7 (このIDを非表示/違反報告)
愛実 - めちゃ続き気になる…、!!!更新待ってます!!無理しない程度で頑張ってくださいッ! (2022年10月6日 18時) (レス) @page23 id: e769ed5532 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:やなり | 作成日時:2022年8月4日 14時