Ep.62「その手を離したつもりはない」・松田side ページ19
んなわけねーだろ。妹みたいなモンだよ。
ハギに揶揄われるたびに、その言い訳が苦しいものに変わっていると気づいたのは、もうだいぶ昔の話だった。
実際そいつは妹みたいなモンで、ビビりなAが見えない化け物を怖がる間は、俺は一丁前に兄貴ズラをしてそいつの手を引いていた。
「ほら、目ぇつぶっとけ」
「で、でも………!」
「見えなきゃいねぇのと同じだろ」
そんなに怖いなら目を瞑ればいい、なんて投げやり半分冗談半ばの言葉だった。怖いなら、余計目なんて瞑れるわけがねぇ。そう思った。
なのに、何の躊躇もなくそいつは目を瞑って、俺の手を強く握りしめた。何も見えない視界の中で、自分の身の安全を委ねられる。全幅の信頼を寄せられているという証、握られた手。
その嬉しさは優越感とも言い変えられるようなものだったかもしれない。
「陣平くん、お、置いてかないでね!」
「置いてかねーよ」
だからお前も、一人で突っ走るなよ。
「ぜっ、絶対に手、離さないでね……!」
「ったりめーだ」
離す気なんてねぇからさ。
「だから、そんな怖がんじゃねーよ」
―――どれも、本気の言葉だった。二十数年たった今でも、あの時言った言葉に嘘はなかった。そう断言できる。
この手を離したつもりはなかった。
なのに。
「あのね、陣平くん。私、転学することになって、山奥の学校で、これから寮生活になるんだ」
お前から手を離すんじゃ、意味ねぇだろ。
自分にAを縛り付ける権利なんてあるはずがなかった。知っている。だから快く送り出したつもりだ。なのに、何故か萩原には内心がバレていて、その時ソイツは珍しく真面目な様子で言った。
「素直になっといた方が幸せになれるぜ?」
「あいつが幸せとは限らねーだろ」
「はっ、拗らせてんなぁ」
そうだ。アイツが幸せならそれでいい。
またこの手を握ってくるなら、その手を握り返してやる。
アイツはビビりだったから。
……だが、Aが戻ってくることはなかった。離された俺の手は行き場を失って、帰る場所をもなくした。
他に居場所を探しても、どうにもしっくりくることはなかった。十数年たった今も、結局俺は、アイツの手の行き先を探している。
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やなり(プロフ) - トマトまとさん» 温かいお言葉をありがとうございます!(T-T) 拙作を好きだと言っていただけて本当にうれしいですし、トマトまと様をときめかせることができたようで良かったです(*^ω^*) こちらこそ、最後まで読んでいただきありがとうございました! (2022年12月13日 14時) (レス) @page28 id: 38128c49d7 (このIDを非表示/違反報告)
トマトまと(プロフ) - 完結おめでとうございます!!!最終話を読んで、裏設定を読んで、更にこの作品が好きになりました。愛っていいなぁと思うお話で、キュンキュンしながら読ませていただきました。素敵な作品を読ませていただき、ありがとうございました! (2022年12月11日 13時) (レス) id: 1d9d2ab89b (このIDを非表示/違反報告)
やなり(プロフ) - 愛実さん» お待たせしました!!最終話を更新いたしました。楽しんでいただけたらうれしいですm(_ _)m (2022年12月11日 11時) (レス) id: 38128c49d7 (このIDを非表示/違反報告)
やなり(プロフ) - そらさん» ありがとうございます!大変遅らせながら、最終話を更新しました。楽しんでいただけたらうれしいです(*´꒳`*) (2022年12月11日 11時) (レス) id: 38128c49d7 (このIDを非表示/違反報告)
愛実 - めちゃ続き気になる…、!!!更新待ってます!!無理しない程度で頑張ってくださいッ! (2022年10月6日 18時) (レス) @page23 id: e769ed5532 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:やなり | 作成日時:2022年8月4日 14時